基本コンセプト
ユス・コムーネ(共通法)
世界的に進行しているグローバライゼーションは、経済的側面にとどまらず、その基盤となる法制度の統一・共通化を要請しています。すでに欧州では欧州人権条約やEU消費財売買指令といった形で、民商法領域に留まらないユス・コムーネ(共通法)の形成が進展してきました。東アジア地域においてもこの動向に応える必要があるとの声が、次第に強まっています。
その際には、しかし、法や人権のあり方が世界的に統一的なものなのか、一定の地域性を持ったものかという点に留意する必要があるでしょう。欧米的理解とは一線を画した「アジア的人権」論が1990年代以降のアジア諸国で主張されたように、社会の現実や文化・伝統法のあり方に大きな差異があることを考えれば、この地域に適したアジア的な法概念の可能性を、人権保障のあり方を含め、真剣に検討する必要があります。
漢字文化圏
ここで、日中韓の東アジア諸国がいわゆる「漢字文化圏」に属することが重要です。欧米起源の法体系を受容するにあたっても、明治維新以降の日本による翻訳作業が中国・韓国の法令用語に大きな影響を及ぼしてきました。もちろん、歴史的経緯やその後の発展により、同じ起源を持つ語であってもその意味が異なるようになった事例も多いですが、情報科学の知見を活用して法情報データベースを構築することにより、法令用語の共通化やそれを基礎としたユス・コムーネの形成が急速に進歩する可能性があります。
法整備支援
また、三ヶ国を囲むベトナム・カンボジア・モンゴル・ウズベキスタンなどアジアの体制移行国に対しては、日本・韓国が法整備支援を行なってきましたし、近年では中国もそこに加わっています。当然ながら、法整備支援という事業を成功させるためには、被支援国の法文化や現行法に対する深い理解が必要です。日中韓の研究者が共同して、アジア諸国の法・政治をめぐる過去と現在について本格的に調査・研究し、その成果を若い世代へと還元していくことは、三ヶ国にとどまらず広くアジア諸国にとって重要な意味を持ち得る事業です。
養成する人材
上記はいずれも、一朝一夕に解決可能ではない長期的課題です。その努力を支えるためには、継続的な学生相互交流を含む、本格的な人材教育交流が不可欠です。本構想では、日中韓各大学の法学部・社会科学系学部による共同の教育を進めることにより、三ヶ国およびアジア地域において将来的に法曹・研究者・公務員(国際・国家・地方)・企業人として活躍することのできる人材を育成することを目指します。
日中韓3国相互間で、学部学生・大学院生の交換留学を実施します。参加学生の将来については、日中韓で活躍するグローバルな公務員(国際・国家・地方)、日中韓で活躍するグローバルな企業人材となることを想定しています。これらの地域で実務・事業を展開している企業・行政機関と連携し、学生の就業力を高めます。
(1)トライアングル交流プログラム
名古屋大学法学研究科・法学部から、1学年あたり10名の学生を中国・韓国の協定校に派遣します(各5名を予定)。
名古屋大学法学研究科・法学部には、1学年あたり中国から5名・韓国から5名の学生を受け入れます。
いずれも派遣期間は原則として半年または1年間で、このあいだにコア・カリキュラムを含めた派遣先大学の講義(英語または現地言語で実施)を履修します。
(2)コア・カリキュラム
コア・カリキュラムとして、下記の科目を設定します。 | |
〈学 部〉 | ①各国の法・政治に関する入門講義 ②社会科学的素養と国際社会への視野を養うための世界を対照とした比較法・政治を扱う講義 ③社会科学分野に特化したものを含めた語学科目 |
〈大学院〉 | ①東アジア比較法の講義 ②東アジア共通法の講義 |
また、派遣準備のための教育として、自国の政治・法体系について学修するとともに、外国語能力を強化する課程を置きます。 |
(3)教育の質の保証
本プログラムに関連する教育については、参加大学により構成されるQuality Assuarance協議会が教育内容・履修状況・単位取得などをチェックし、質の保証に務めます。