HOME > Lecture > 民主主義の歴史と現在(2010)

履修について

本講義の目的およびねらい

現在の世界で主流となっている民主主義について、制度を支える思想と、制度を生みだした歴史にさかのぼって考察する。我々の知っている民主政が「可能な選択の一つ」に過ぎないこと、様々な批判が民主政の内外から加えられていることを認識したうえで、どのような態度を取るのか、それを考えるための知識を身に付けてもらいたい。

履修条件あるいは関連する科目等

特になし。

授業内容

  • 1.古代民主政と民主主義の思想
  • 1−1.古代の民主政治:アテネとローマ
  • 1−2.民主主義をめぐる思想
  • 1−3.古代民主政の崩壊
  • 2.市民革命と近代民主政
  • 2−1.市民革命の神話:フランスの革命
  • 2−2.民主政の構築:アメリカの革命
  • 2−3.代表民主政の思想:イギリスの革命
  • 2−4.近代民主政の病理現象
  • 2−5.民主政批判——社会主義とファシズム
  • 3.現代民主政とその批判
  • 3−1.リベラル・デモクラシーの思想と制度
  • 3−2.直接民主政の復権——情報化・住民投票・NGO
  • 3−3.共同体主義(communitarianism)
  • 3−4.対話と闘争——民主主義の新たな潮流

成績評価の方法

試験による。

教科書・参考書

教科書は特に指定しない。参考書については、講義において随時指示する。

注意事項

特になし。

試験問題と採点講評

試験問題は3問から1問を選択して解答するものであった。今回も「聞かれている内容に答えていない」答案が目立つ。第1問では「近代民主政との比較のもとに」、第2問では「近代民主政批判の特徴を述べよ」と指示されているのだから、たとえば第1問で古代民主政内部の違いを延々と説明するとか、第2問で特定の思想の・近代民主政批判と関係のない特徴(たとえばマルクス主義における労働価値説の問題点)を書き連ねても「問題に答えている」とは言えない。不可答案の半分程度はこのように設問の内容を意識しないままレジュメからの書き起こしなどでページを埋めているものであった(残りの半数程度は分量不足も含めて十分な解答になっていないものである)。また、講義の前提となっている基礎的な事項に関する知識がそもそも大幅に不足している答案も目立った(たとえば、古代民主政について国王との権力バランスを問題にするなど)。これを踏まえて、以下に設問と個々の問題に関する講評を述べる。

1. 古代民主政の特徴について、近代民主政との比較のもとに説明せよ。

上述したとおり「古代民主政」と「近代民主政」の比較なのであるから、それぞれに共通する特徴を大まかに抜き出して対比する必要があるのであって、それぞれの内部の差異を強調すればするほど(比較が成立しなくなるので)マイナスということになる(その方向を進めて「むしろこのような軸での比較の方が適切」というところまで議論が進めば評価に値するが)。指摘すべき特徴としては、第一に直接民主政であること、第二に実力の集中の有無、第三に「民主政」という言葉のイメージが挙げられるが、この三点自体はレジュメでも要約してあることなので、それらをどれだけ関連付けて説明することができるか、あるいはそのいずれかに集中して自分の言葉で説明できているかが評価の分かれ目となった。選択者が非常に多かった問題。

2. 近代民主政を批判した思想のうち一つを取り上げ、その主張について説明した上で、その近代民主政批判の特徴を述べよ。

初期社会主義、あるいはマルクス主義を取り上げて、それらが混乱し無秩序な競争社会と位置づけた近代民主政=レッセフェール経済に対置して科学的・合理的・計画的な生産と経済活動の必要性を主張したことを述べるのが、おそらく簡単。もちろんファシズムや修正資本主義の立場を選択しても構わない。約1/3が選択した問題。

3. 以下の見解について述べよ。

フランス革命の意義は、ひとことで要約すれば、中間団体を担い手とする多元主義を原理的に克服し、諸個人と集権的国家とがむかいあう二極構造の社会を基礎づけた、というところにある。(……)絶対王政が身分制の網の目によって支えられているかぎり、集権的国家の完成度という面から見て、絶対王政は「絶対」にはなることができない宿命をもっている。身分制的社会編成を原理的に否定して諸個人と国家の二極構造を生み出すことによってこそ、近代市民革命が集権的国家を完成させる。そしてその点にこそ、ここでいうフランス革命の典型性があったのだった。

フランス革命の特徴が、たとえば同じ近代民主政におけるアメリカの革命と比較すれば、中間団体を敵視し・排斥することによって「上からの民主政」を築くところにあったという点を踏まえ、しかしそこから国家の暴走を排除することのできない危険性が生じた点を指摘すればよい。この文脈が理解出来ていた答案は一定以上の成績だったが、大半がそもそもの文脈を理解できていないものだった。選択者は非常に少ない。

参考文献リスト

講義でよくわからない部分があったり、より深く勉強したい場合には、こちらのブックガイドを参照してください。

配布プリント

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成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
A (優)
28 (23.1%)
B (良)
27 (22.3%)
C (可)
28 (23.1%)
D (不可)
38 (31.4%)

これ以外に、指示に反して2問に解答した答案が2通あった。それぞれの基準により採点し、いずれか良い方の成績を採用した。