HOME > Lecture > 民主主義の歴史と現在(2008)

履修について

本講義の目的およびねらい

現在の世界で主流となっている民主主義について、制度を支える思想と、制度を生みだした歴史にさかのぼって考察する。我々の知っている民主政が「可能な選択の一つ」に過ぎないこと、様々な批判が民主政の内外から加えられていることを認識したうえで、どのような態度を取るのか、それを考えるための知識を身に付けてもらいたい。

履修条件あるいは関連する科目等

特になし。

授業内容

  • 1.古代民主政と民主主義の思想
  • 1−1.古代の民主政治:アテネとローマ
  • 1−2.民主主義をめぐる思想
  • 1−3.古代民主政の崩壊
  • 2.市民革命と近代民主政
  • 2−1.市民革命の神話:フランスの革命
  • 2−2.民主政の構築:アメリカの革命
  • 2−3.代表民主政の思想:イギリスの革命
  • 2−4.近代民主政の病理現象
  • 2−5.民主政批判——社会主義とファシズム
  • 3.現代民主政とその批判
  • 3−1.リベラル・デモクラシーの思想と制度
  • 3−2.直接民主政の復権——情報化・住民投票・NGO
  • 3−3.共同体主義(communitarianism)
  • 3−4.対話と闘争——民主主義の新たな潮流 

成績評価の方法

試験による。

教科書・参考書

教科書は特に指定しない。参考書については、講義において随時指示する。

注意事項

特になし。

試験問題と採点講評

試験問題は3問から1問を選択して回答するものであった。総評としては「聞かれている内容に答えなさい」というものに尽きる。第1問や第2問では「比較のもとに」「関係について」と明記されているにもかかわらず一方のみを説明して済ませている答案が目立った。また第3問では課題文の見解について説明することが求められているのであるから、まずそれがどのような思想的立場の人によって書かれたどういう内容の見解で、そこで想定されている批判対象が何でありどのような前提が置かれているかといったことを明らかにすることが議論する前提として何よりもまず必要であり、回答者の感想などはそれを踏まえて付け加えられるべきものに過ぎない。この点を誤解した「感想文」ばかりが答案として提出されていたが、高校までの国語の授業ではないので、理由を他者に対して示すことのできない「感想」に学問上の価値を認めることはできない。これを踏まえて、以下に設問と個々の問題に関する講評を述べる。

1) 古代民主政の特徴について、近代民主政との比較のもとに説明せよ。

それぞれの概念について明らかにした上で、国家の執行力の背景たる暴力が集中されているかどうか(たとえば常備軍が編成されているかどうか)、「選挙」という制度の位置付け(古代においてはむしろ寡頭政的な要素と位置付けられていた)などについて指摘すればよい。

2) 社会進化論と近代民主政の関係について説明せよ。

スペンサーを典型とする社会進化論が、自由主義経済思想と結合した近代民主政の正当化理論として機能したことを指摘し、その結果としてどのような社会が形成されたか、その問題点としてどのような点が考えられるかなどを明らかにすればよい。

3) 以下の見解について論ぜよ。

金儲けをしたらどうなるか。楽天的、現実的な性格を持つ日本民族は、必ず物質的な生活水準を向上して贅沢になり、その反面、体力、気力を失い、質実剛健の気風を消磨するに相違ない。しかも一度向上した生活水準を低下するのは至難であるから、爾後これを維持するためには、どうしてもさらに金儲けの道を拓かねばならぬ。(……)それには満人や支那人が利口になるといけないから愚民政策をとらねばならぬ。しかしながら、愚民政策をとっても、利口になることを防ぐことはできぬ。従って、次には武力で理不尽なる圧迫を加えねばならぬ。かくして(……)家族的新東亜建設は邪道に導かれ、英国流の植民地建設の轍を踏むことになる。(……)日満支諸民族の生活水準の均衡を計ることである。これがため、日本人は自粛自戒して物質的生活水準の向上を制圧し、満支人に対してはこれを向上して、日本人なみに追及させるような政治、経済の政策をとることが必要である。(……)内外一般に日満支ブロック内の商工業は国策会社として、また個人的にも国策に基づいて経営されねばならぬ。(……)この富を資本主義的に私することは絶対に許してはならぬ。

出典は佐藤卓己『言論統制:情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』(中公新書 2004)。ポイントは、ここで典型的に示されているような日本の軍国主義(の一部)の思想が、レッセフェール経済と結びついた近代民主政を私利私欲に導かれた無秩序で不合理なもの、強制抜きには維持できない「悪い」制度だと捉えた上で、互恵的・友愛的な秩序の構築によってそれを乗り越えようとする点で共産主義・社会主義ときわめて接近するという点にある。ところが、語彙や文脈から明らかであろうと思われるにもかかわらずこの文章を上記のような歴史的文脈に正確に位置づけることのできた答案は一通もなく、もちろんそれに代わり得るような十分な見解を展開することに成功したものもなかったので、本問選択者が全員不可になるという結末に終わった(なお該当者の数が決して多くないのは、「自分にはわからない」ことはわかるという最低限度の実力を持つ学生が多数を占めていたということだろうと心を慰めている)。

成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
A (優)
14 (12.1%)
B (良)
36 (31.0%)
C (可)
31 (26.7%)
D (不可)
35 (30.2%)