法思想史(2010)



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試験問題

以下の3問のうち1問を選択して解答せよ。

解答の冒頭に設問番号を記入しておくこと。どの設問に対する解答か不明の答案は採点しない。

1)

「法律構成」juristische Konstructionと「区別」distinguishingについて論じなさい。

2)

イギリス的自然法論の特徴について論じなさい。

3)

以下の見解について論じなさい。

現代の規範的法実証主義者で、ベンサムに近い議論を展開していると言えるのは(……)ウォルドロンとキャンベルであろう。彼らにおいては、すべての人の意見は平等な価値を持ち、尊重されなければならないという観点から、重要な社会的問題は、国民の意志を反映した議会によって決定されるべきとされており、司法消極主義、制定法解釈における文理解釈、厳格解釈が説かれているが、それらは、コモン・ローを批判し、「立法の科学」を展開したベンサムの議論の現代版とも言える。例えば、ウォルドロンは(……)裁判官の間で意見が分かれるような重要な問題は、裁判官の間の多数決で決定されるべきではなく、国民の意志を反映した議会における議論・熟議によって決定すべきだとしている。また(……)イギリスにおけるヨーロッパ人権規約の編入と関連して、アメリカ型の違憲審査制を批判し、憲法上の人権の問題などは、国民あるいは国会の多数決によって決定すべきであるとし、多数者の専制批判については、それは現実を反映した批判ではないと論じている。

持ち込み許可物:


外部との通信手段、生物、音響を発し又は動作に外部電源を必要とする電子機器類を除く一切の持込を許可する。最終的には担当教員が判断する。

採点講評

本年度試験問題は3問のうち1問を選択して回答するものであった。各問に関する採点講評を下に示す。

1)

併記されている原語を見てもわかるとおり、前者はドイツ法・後者は英米法(特にイギリス)の文脈で用いられるものである。それぞれの内容について説明した上で、どちらの場合でも裁判に対する拘束(大陸法の場合は制定法、英米法の場合は先例拘束性原理)を潜脱するためにこのような手法が用いられたのであり、一般的には対立的に捉えられる両者の間に一定の共通性があることを指摘できればよい。もちろん差異を強調して「やはり違う」という結論に持っていくこともできる。いずれにせよ、それぞれの概念を正確に捉えている答案はB以上とした。選択者は2割弱。

2)

典型的にはブラックストン、先駆的にはグランヴィルに現れているような英米法における法概念について述べ、それが「自然法論」と呼ばれているものの大陸の伝統と異なる側面(正当性原理の混在)を秘めていることを指摘すればよい。そもそも問われている「イギリス的自然法論」が何を指すのかを理解できていない答案が多く、ほぼ自動的に不可となった。また、誰が何を言ったのかが理解できていない答案も多数あった。具体的に言えば、一般的な正当性原理として4種をあげてそれらがグランヴィルの中に混在していると指摘しているのは担当教員であり、グランヴィル自身がそれらを区別して論じていたりそのような分類を行なっているわけではない(できていれば「混在」するはずがない)。講義を聞いているか、グランヴィルなりブラックストンなりの原典かきちんとした解説を読めばあり得ない誤解なので、レジュメだけを見て勉強した気になっている学生が多いものと思われる。この点で誤解のある答案はおおむねC相当とした。選択者はもっとも多く、半数以上。

3)

出典は、戒能通弘『世界の立法者、ベンサム:功利主義法思想の再生』(日本評論社、2007)。「見解について」論ぜよというのだから、ウォルドロンやキャンベルとベンサムの議論が似ているという主張に対してどういう点が似ていると言えるのか(たとえば特権化する法曹階級に対する不信)、あるいはどういう点で違っていると考えるか(たとえば万人の抱く効用を差別しないベンサムの「最大多数の最大幸福」と、一人一票という形で表現された意見をもとにする民主主義(逆に言えばその意見のもととなる効用の強度は無視される可能性がある)の違い)を述べればよい。逆に、ベンサムの功利主義の内容についてどれだけ述べても「見解について」論じていることにはならないので、適切な回答とは看做されない。不可答案の大半はこの点を勘違いしているものである。選択者は約3割。

成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
A (優)
26 (20.0%)
B (良)
40 (30.8%)
C (可)
36 (27.7%)
D (不可)
28 (21.5%)