法思想史(2009)



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試験問題

以下の3問のうち1問を選択して解答せよ。

解答の冒頭に設問番号を記入しておくこと。どの設問に対する解答か不明の答案は採点しない。

1. プーフェンドルフの自然法論はどのような意味で義務の体系であると言われるのか、比較に基づき論ぜよ。

2. 本性的傾向性inclinationes naturalesの概念と、その持つ意義について論ぜよ。

3. ホッブズとルソーの社会契約説につき、比較に基づいて論ぜよ。

持ち込み許可物:


外部との通信手段、生物、音響を発し又は動作に外部電源を必要とする電子機器類を除く一切の持込を許可する。最終的には担当教員が判断する。

採点講評

本年度試験問題は3問のうち1問を選択して回答するものであった。各問に関する採点講評を下に示す。

1)

基本的にはそれが、人間の本性に由来する社会性に議論を基礎付けるために当事者の意思から離れた客観的な義務としての自然法を措定することを指摘し、個々人が外的な存在に従属しないという意味での自律を享受するという前提から、しかしそのような理性的自律主体が共存し得る条件としての自然法を導こうとするカントの「権利の体系」との対比について説明すればよい。ホッブズの自然権論との対比を試みた答案が複数あり、不可能ではないが上記のような対比に比べると筋は悪いと考えられる(ホッブズは自然権から出発するが自然法に基づいてその放棄を基礎付けるわけで、権利性にあくまで立脚した理論と言えるかには疑問が残るため)。なお選択者はほとんどいなかった。

2)

人々の現実の行動に含まれる傾向性の中に人間本性が反映しているという考え方であること、その背景にキリスト教自然法論における目的論的な自然観があることを指摘すればよい。その上で、この考え方では必然的であり逆らい得ないものである「法則」と「法」との区別がなされていないことなどを指摘するのがスタンダードな展開になる。なお選択者はほとんどいなかった。

3)

この問題では、ホッブズ・ルソーそれぞれの理論について、参考文献などで説明されているような通説的見解と、講義で説明したような別の解釈があることに注意する必要がある。どちらに立脚するかというのは選択の問題だが、無批判に混同すると、たとえば虚栄心vain gloryを一方では欲望と並列されるようなホッブズにおける性悪説的な人間観の一要素として批判的に取り上げながら、他方でそれがときに崇高であり社会維持のために否定しきれない要素であるという講義での肯定的な指摘に言及してしまうように、混乱に陥ってしまう。
このような理解不足による問題答案は数多く見受けられた。たとえばルソーの一般意思概念が超越的だと書くのだが、それがどういう意味でどのような問題があるのかまったく指摘できていないもの(単にレジュメを書き写しただけと思われる)、ホッブズにおける社会契約を国民と国家のあいだのものと認識しているもの(実際には市民間の契約であり、国家とのあいだに契約関係がないことが通説的見解においては絶対主義を擁護する原因として指摘されている)。また、参考文献を書き写しただけの答案も散見されたが、持込可の試験でそれがどのような能力証明になると考えているのかは理解に苦しむ。結果的に不可となった答案が相当数に達しているが、対象者は自分の学習姿勢について再検討してほしい。

成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
A (優)
21 (19.8%)
B (良)
35 (32.0%)
C (可)
21 (19.8%)
D (不可)
29 (27.4%)