法整備支援とはなにか

冷戦の終結によって市場経済の導入を進めつつある国々(ベトナム・ラオス・ウズベキスタンなど)、内戦を終えて社会の再建を進めている国々(カンボジアなど)では、新しい国家のあり方をデザインするとともに、それを支える法制度を作ることが急務となっています。
これらの体制移行国による、人権保護と経済発展の基礎となる法制度の整備を支援することは先進国の責務であり、各国が積極的に取り組みを進めています。日本も、主にアジアの体制移行国を対象に支援を進めてきました。具体的には、ベトナムにおける民法制定、カンボジアの民法・民事訴訟法制定に対する支援が挙げられます。
また、法案の起草と制定に向けた直接的な支援だけでなく、法制度を運用する人材の養成に関する支援も行なわれています。たとえばカンボジアの弁護士養成学校に対しては、日本弁護士連合会が継続的な支援を行なってきました。
名古屋大学法学部も、主に体制移行国からの留学生の受け入れを通じて、法整備支援に取り組んできました。それぞれの国で裁判官・弁護士・法政官僚などとして活躍する人材を育てることを通じて、体制移行国の発展と民主化に貢献することは、我々の重要な目的です。

なにが必要なのか

紙に書かれたものとしての法律を作ることももちろん重要ですが、それだけでは社会を変えることはできません。その法律を運用する人材(法律家)、必要なときに改正を行なえる人材(法制官僚)が必要ですし、法律によってできあがった制度が国民に信頼され、利用されることが重要です。
つまり、法制度はそれぞれの国の社会状況を踏まえ、国民が理解し歓迎するようなものである必要があります。実情を無視して、どこか別の国の既存の制度をただ持ち込んでも、それが生きた法制度として社会に根付くことはありません。それぞれの社会の違いと実情を認識し、目的に合わせた適切な法制度を設計することが求められています。

どのような人材が必要か

法律への関心

法制度を作るためには、もちろん法律の知識が必要です。しかし、国内で活躍する一般的な法律家と違い、既存の制度を使って訴訟で戦うのではなく、人々が使いたくなるような制度を作ることが主な課題になります。
日本法の専門的な知識よりも、広くさまざまな分野・国の制度に関心を持ち、制度設計の参考にするような姿勢を持っている人が求められています。

異文化への関心

また、支援対象となる国々は日本と異なる社会・文化・習慣を持っています。それらを理解したうえで適切な法制度を設計するために、異文化に関心を持ち、お互いの違いを認識したうえで両者が受け入れられる解決を提案することのできるような、柔軟な精神を持っている人が求められています。

異分野への関心

法制度を作る際には、対象となる分野の正確な理解が不可欠です。たとえば土地に関する法律であれば、その国でどのような農業が行なわれており、それがどのように所有権制度と結びついているかを分析する必要があります。
そのためには、それぞれの分野に詳しい専門家と情報を共有し、共同して解決をさぐる必要があります。自分と異なる背景を持つ専門家たちと共同してプロジェクトを進めることができるような、コミュニケーション力の高い人が求められています。

外国語への関心

もちろんそのためには、外国語の能力が欠かせません。国際機関や他国の支援機関とコミュニケートする際には英語による高度の会話能力が必要になります。現地サイドの政治家・官僚と折衝したり、そもそも現地駐在で生活していくためには、その社会で広く使われている言葉を習得する必要もあるでしょう。
状況にあわせ、必要となる語学力を身に付けていくことができるような、語学への強い意欲を持つ人が求められています。




さらに知りたい人に

政府インターネットテレビ「法制度整備支援」
法務省法務総合研究所国際協力部

大屋雄裕「法整備支援と立法学の可能性」
大屋雄裕「法整備支援と日本の経験」より

専門的な書籍ですが、キャンパス・アジアの構想責任者でもある鮎京正訓教授の『法整備支援とは何か』(名古屋大学出版会・2011)も参考にしてください。