2008年度(平成20年度)入学試験法学既修者選抜試験

 2008年度入学試験法学既修者選抜試験の問題を掲げる。なお、各科目の出題形式は、以下のようなものに限られるわけではない。科目内容や出題形式については、募集要項を参照すること。

法学既修者選抜試験・民事法問題

民事法1(配点 130点)

  1. 次の事項について、それぞれ200字から400字の範囲内で説明しなさい。
    • (1) 無償契約の法的拘束力と、無償委任における受任者の注意義務
    • (2) 物上代位権行使の要件としての「差押え」の意義と、物上代位と債権譲渡の優劣
    • (3) 嫡出推定制度の意義と、親子関係不存在確認の訴えが認められる範囲
  2. 次の事例について、各小問に答えなさい。なお、《ア》から《ウ》は連続する一連の事例であるが、小問はそれぞれ独立した問題である。

    《 ア 》
    本件土地を含む一帯の土地は、もとは畑であったが、都市計画事業により、甲土地と乙土地とに区分された。1970年2月、甲土地についてはXが、乙土地についてはAが、それぞれ落札をし、所有権移転登記が経由された。Xは、ただちに自己の所有地をフェンスで囲み、平穏・公然に占有を開始し、住居を構えた。しかし、そのなかには、乙土地の一部である本件土地も含まれていた。

    小問1 1982年4月にAが乙土地をPに譲渡し、所有権移転登記も完了したとする。1993年5月の時点でPが本件土地の明渡しを請求してきたとき、Xは時効取得をPに主張できるか。ここでは、Xが1970年2月の占有開始時に善意かつ無過失であったことを前提としたうえで論じなさい。

    《 イ 》
    上記《ア》の事実の後、Aは、1991年5月、本件土地につきYのために本件抵当権を設定し、その旨の登記を了した。2007年6月、Xは、「1970年時効取得」を原因として本件土地につき所有権移転登記を経由した。

    小問2 2007年10月の時点で、Xは、本件抵当権の設定登記の日である1991年5月から、さらに10年間本件土地の占有を継続したことで再度の取得時効が完成したとして、その援用について意思表示をした。これによって、Xは本件抵当権の設定登記の抹消をYに請求できるか。X、Yそれぞれが主張しうる論拠をあげたうえで論じなさい。

    《 ウ 》
     上記《イ》の事実の背景には次のような事情があった。
     1990年6月、Aは、本件土地につき、Xを相手に所有権確認と明渡しを求める訴訟を提起したが、ほどなくしてこの訴訟を取り下げ、その後も、何度も訴訟の提起と取下げを繰り返していた。こうした態度を示すAに対し、Xは、1998年9月、主位的には本件土地が甲土地に含まれていることを、予備的には時効取得を理由として、本件土地につき所有権確認訴訟を提起した。
     2006年4月に出された判決は、次のようなものであった。Xの占有した本件土地部分は、形状からすると甲土地の一部のように見えるが、測量の結果からすれば、A所有の乙土地の一部と解される。しかし、Xは、本件土地を善意・有過失ながら自主占有していたから、その時効取得の成立は認められる。
     Xの登記が取得時効の完成から17年後となったのは、上記判決が確定し、これを原因証書とすることができるまで、Xが登記することが事実上不可能だったからであった。

    小問3 上のような事情があった場合でも、小問2において導かれた結論は維持されるか、論じなさい。

民事法2(配点 70点)

  1. 次の事項について、それぞれ100字から300字の範囲内で説明しなさい。
    • (1) 取締役会非設置会社における株主提案権の行使方法
    • (2) 社債権者集会の決議が効力を生じるための要件
    • (3) 約束手形の隠れた取立委任裏書
  2. 次の事例について、各小問に答えなさい。

     甲株式会社は設立以来急成長を遂げ、会社の規模が拡大してきた。これまでは、会社の機関としては、取締役4名で取締役会を構成するものとし、かつ監査役は1名を選任するものとしてきた。あるとき顧問の弁護士から、今回の募集株式の発行により、会計監査人の設置が必要になると指摘された。

    小問1 会計監査人の設置が必要になるのは、どのような理由によるものと考えられるか。また、甲株式会社が会計監査人を設置する場合に、具体的にはその設置をどのように決定したらよいか。根拠となる条文を指摘しながら答えなさい。

     その募集株式の発行が効力を生じたのは、平成19年10月15日であった。甲株式会 社の決算は9月末日に行われ、定時株主総会は例年、11月25日に行われている。

    小問2 会計監査人の設置は、何時から必要になるか。根拠となる条文を指摘しながら答えなさい。

     甲株式会社はその後さらに、上場を目指すこととなり、株式譲渡制限に関する定款の定めを削除する改正を行うことにした。そうすると、これまでのような、監査役1名の機関構成のままであることは許されなくなると、顧問の弁護士から指摘された。

    小問3 監査役1名では許されなくなるのは、どのような理由によるものと考えられるか。根拠となる条文を指摘しながら答えなさい。

     甲株式会社は、上場計画を推進するにあたり、監査役会設置会社と委員会設置会社のいずれを選択すべきかについて検討することになった。

    小問4 監査役会設置会社と委員会設置会社の特色を、具体的な規定をあげながら比較しなさい。それをふまえて、もしもあなたが甲株式会社の代表取締役社長であるとすれば、いずれの選択を提案したいか、理由を示しつつ論じなさい。

法学既修者選抜試験・公法問題

  1. 次の事項について、それぞれ300字から400字の範囲内で説明しなさい。
    • (1) 日本国憲法における二院制の存在意義
    • (2) 処分理由の提示の意義と効果
  2. 次の事例について、各小問に答えなさい(いずれも600字以内とする)。

     産業廃棄物処理業者Xは、A県B町内に産業廃棄物処理施設を建設するべく、2000年11月初旬に、廃棄物処理法により、当該施設の設置許可権限を有するA県知事に計画書を提出し、同月末に県及び関係機関との協議を開始した。B町の町長Yは、この情報を得てさっそくB町水道水源保護条例の制定に着手し、翌2001年3月末にこれを公布し即日施行し、さらに、8月には施設建設予定地を含む町内の相当部分を水源保護地域に指定した。
     Xは、条例にしたがってYに一日の使用予定水量等を記載した事業計画書を添付した協議書を提出するとともに、説明会を開催したが、Yは審議会の意見を経て規制対象事業場の認定をするに至った。Xは、2002年5月にA県知事から施設の設置許可を得たものの、上記認定をうけて処分場を設置できないので、当該認定処分の取消しの訴えを起こした。Xは、まず水道水源保護条例そのものが違憲・違法であるとして争いたいと考えた。
     しかし裁判所は、審理において、XとYとが水の使用予定水量や水源からの取水量についてどのような協議を重ねてきたかにも関心を寄せているようである。そこでXは、Yが認定の際にXの利益についての配慮を欠いた違法があるとも主張することとした。

     
    • 小問1 当該条例を違憲・違法とする論理が成り立つかを論じなさい(水道法との関係の問題は除外して考えること)。
    • 小問2 Xの立場から主張しうる、Yが認定を行う際の「配慮義務」の根拠及び内容と、その義務を欠いたといえるのはどのような場合かを論じなさい。

    (資料)

    【廃棄物処理法】
    (産業廃棄物処理施設)
    第15条@
    産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設、産業廃棄物の最終処分場そ の他の産業廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。
    (以下略)
    【B町水道水源保護条例の概要】
    • @ この条例は、安心して飲める水の確保のために水源を保護することを目的とする。
    • A 町長は、水源の水質を保全するため水源保護地域を指定することができ、産業廃棄物処理業等、水質を汚濁させ、又は水源の枯渇をもたらすおそれのある事業を対象事業として、対象事業を行う工場その他の事業場のうち、水道にかかわる水質を汚濁させ、若しくは水源の枯渇をもたらし、又はそれらのおそれのある工場その他の事業場を規制対象事業場と認定し、水源保護地域指定をうけた区域における規制対象事業場の設置を禁止している。違反者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
    • B 水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者は、あらかじめ町長に協議を求め、関係地域の住民に対する説明会の開催等の措置をとることを義務付けられている。町長は、事業者から事前協議の申出があったときは、B町水道水源保護審議会の意見を聴き、規制対象事業場と認定するかどうかを判断する。

法学既修者選抜試験・刑事法問題

  1. 次の事項について、それぞれ200字から400字の範囲内で説明しなさい。
    • (1) 伝播性の理論
    • (2) 故意ある幇助的道具
  2. 次の事例について、甲の罪責を論じなさい(特別法違反の点は除く。また、住居侵入罪については論じる必要はない)。

     甲は、仇敵Xの寝込みを襲って殺害しようと考え、深夜、2キロ離れたXの家に自転車で向かった。この自転車は、甲と同じ共同住宅の隣室に住むYが駐輪場に停めていたもので、甲はYが夜間はこの自転車を使わないことを知っており、1時間以内に元通り戻しておくつもりで勝手に使用したのであった。X宅に着いた甲は、先ずXの番犬に睡眠薬を混ぜた餌をやってしばらく眠らせると、開け放たれていた窓からこっそり中に入り、眠っているXの首を絞めた。しかし、Xは目を覚まして抵抗し、怯んだ甲の隙を見て外に逃げ出した。そして、追跡する甲が背後に迫って来たので、信号が赤から青に変わる寸前の横断歩道を渡って逃げ切ろうとして、信号を守って走行して来た自動車にはねられて即死した。甲はそ知らぬ顔で帰宅し、予定した時間内に自転車を戻しておいた。