2006年度(平成18年度)入学試験法学既修者選抜試験(問題例)


 2006年度入学試験法学既修者選抜試験の出題問題のうち、いくつかを問題例として掲げる。なお、各科目の出題形式が、以下の問題例の形式に限られるわけではない。科目内容や出題形式については、募集要項の記述を参照すること。



      公法短答・7問中の2問

     公法論述・1問中の1問

     刑事法短答・4問中の2問

     刑事法論述・1問中の1問

     民事法短答・12問中の4問

     
民事法論述・2問中の2問




公法短答・7問中の2問

【問1】 裁判所が法律等の憲法適合性を審査判断する司法審査制と民主制の関係について、400字以内で説明しなさい。

【問2】 「通告処分」の例を一つあげながらその仕組みを80字以内で簡潔に説明しなさい。


公法論述・1問中の1問

【問題】
以下の問題文を読んで下の問(1)(2)に答えなさい。

ア K市立工業高等専門学校(以下、K高専という。)では学年制が採られており、学生は各学年の修了の認定があって初めて上級学年に進級することができる。K高専の学業成績評価及び進級並びに卒業の認定に関する規程(以下「進級等規程」という。)によれば、進級の認定を受けるためには、修得しなければならない科目全部について不認定のないことが必要であるので、ある科目の学業成績が100点法で評価して55点未満であれば、その科目は不認定となる。学業成績は、科目担当教員が学習態度と試験成績を総合して前期、後期の各学期末に評価し、学年成績は、原則として、各学期末の成績を総合して評価することとされていた。また、進級等規程によれば、休学による場合のほか、学生は連続して2回原級にとどまることはできず、K高専学則31条には退学事由として「学力劣等で成業の見込みがないと認められる者」との定めがあり、同退学に関する内規において、校長は、連続して2回進級することができなかった学生に対し、退学を命ずることができることとされていた。

 イ K高専では、保健体育が全学年の必修科目とされ、第1学年の体育科目の授業の種目として剣道が採用されていた。剣道の授業は、前期又は後期のいずれかにおいて履修すべきものとされ、その学期の体育科目の配点100点のうち70点、すなわち、第1学年の体育科目の点数100点のうち35点が配点された。

 ウ Xは、両親が、聖書に固く従うという信仰を持つ「エホバの証人」の信者であったこともあって、自らもその信者となった。Xは、その教義に従い、格技である剣道の実技に参加することは自己の宗教的信条と根本的に相いれないとの信念の下に、K高専入学直後で剣道の授業が開始される前の4月下旬、信者である他の学生らと共に、体育担当教員らに対し、宗教上の理由で剣道実技に参加することができないことを説明し、レポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れたが、右教員らは、これを即座に拒否した。Xは、実際に剣道の授業が行われるまでに同趣旨の申入れを繰り返したが、体育担当教員からは剣道実技をしないのであれば欠席扱いにすると言われた。校長Yは、Xらが剣道実技への参加ができないとの申出をしていることを知って、同月下旬、体育担当教員らと協議をし、これらの学生に対して剣道実技に代わる代替措置を採らないことを決めた。Xは、同月末ころから開始された剣道の授業では、服装を替え、サーキットトレーニング、講義、準備体操には参加したが、剣道実技には参加せず、その間、道場の隅で正座をし、レポートを作成するために授業の内容を記録していた。Xは、授業の後、右記録に基づきレポートを作成して、次の授業が行われるより前の日に体育担当教員に提出しようとしたが、その受領を拒否された。

 エ 体育担当教員又はYは、Xら剣道実技に参加しない学生やその保護者に対し、剣道実技に参加するよう説得を試み、保護者に対して、剣道実技に参加しなければ留年することは必至であること、代替措置は採らないこと等の方針を説明した。保護者からは代替措置を採って欲しい旨の陳情があったが、Yはこれを拒否した。その間、Yらは、剣道実技への不参加者に対する特別救済措置として剣道実技の補講を行うこととし、2回にわたって、Xらに参加を勧めたが、Xはこれに参加しなかった。その結果、体育担当教員は、Xの剣道実技の履修に関しては欠席扱いとし、剣道種目については準備体操を行った点のみを5点(学年成績でいえば2.5点)と評価し、第1学年にXが履修した他の体育種目の評価と総合してXの体育科目を42点と評価した。第1次進級認定会議で、剣道実技に参加しないXらについて、体育の成績を認定することができないとされ、これらの学生に対し剣道実技の補講を行うことが決められたが、X外4名はこれに参加しなかった。そのため、平成3年3月23日開催の第2次進級認定会議において、同人らは進級不認定とされ、Yは、同月25日、Xにつき第2学年に進級させない旨の原級留置処分をし、X及び保護者に対してこれを告知した。

 オ 平成3年度においても、Xの態度は前年度と同様であり、学校の対応も同様であったため、Xの体育科目の評価は総合して48点とされ、剣道実技の補講にも参加しなかったXは、平成4年3月23日開催の平成3年度第2次進級認定会議において外4名の学生と共に進級不認定とされ、Yは、Xに対する再度の原級留置処分を決定した。また、同日、表彰懲戒委員会が開催され、X外1名について退学の措置を採ることが相当と決定され、Yは、自主退学をしなかったXについては2回連続して原級に留め置かれたことから、学則の退学事由に該当するとして、同月27日、原級留置処分を前提とする退学処分をXに告知した。 

 カ そこで、Xは原級留置処分および退学処分を違法として取消訴訟を提起するとともに、処分の執行停止を申立てた。

(1)Xの立場に立って、上記処分が違憲であることを有効に主張しなさい。

(2)Yは、Xへの上記処分が専門的判断にもとづく裁量処分であることを根拠として、違法性を否定している。Xの立場に立って、これに有効に反論しなさい。





刑事法短答・4問中の2問

【問1】 次の文章の  ア 〜  コ  に適切な語句を入れなさい。
 法益に対して侵害の危険が切迫した場合、これを救助するのは究極的には  ア の任務である。それを  イ  が行った場合を  ウ 行為と呼ぶ。その典型例である正当防衛と緊急避難を対比してみよう。先ず成立要件を見ると、前提状況については、正当防衛における侵害の急迫性と緊急避難における危難の  エ 性は同義と解されているが、 オ 性は正当防衛にのみ課された要件である。次に行為の要件に目を向けると、防衛行為の必要性と カ 性に避難行為の  キ 性と害の均衡がそれぞれ対応しており、いずれも緊急避難の要件の方が厳格である。最後に、両者の法的性質はどうか。正当防衛が違法阻却事由であることは争われていないが、緊急避難については  ク 阻却説の他、利益優越の場合は  ク 阻却事由、利益同等なら  ケ 阻却事由との説も有力であり、正当防衛とは際立った対照を見せている。大審院の判例にも、緊急避難が成立する場合に、行為者から被害者に対する  コ 義務を認めたものがあるが、正当防衛ではこのようなことはあり得ないのである。

【問2】 「幻覚犯」の意義、およびそれが不可罰とされる理由を、400字以内で説明しなさい。


刑事法論述・1問中の1問

【問題】
AはBを殺害しようと考え、金に困っているCにその実行を依頼したところ、Cは成功報酬目当てにこれを引き受け、AからBの居所や人相等を教わった。しかし、Cは別人のDをBと間違え、殺意をもってDの腹をナイフで刺して逃げた。救急車で近くの病院に運ばれたDは、直ちに輸血をすれば助かったにもかかわらず、医師が輸血の際に血液型を間違えたため、死亡した。一方、人違いに気付いたCは、遂にBを探し出し組み伏せ、Aに頼まれて殺しに来た旨を告げてナイフを振りかざした。そこでBは、自分の命を助ける代わりにAを殺してくれるなら、Aから提示されている成功報酬の倍の金額を前払いすると約束した。Cが承知したので、Bは自宅に現金を取りに戻り、これをCに渡し、二人は別れた。しかし、CはAを殺すことなく、この金を費消した。A、B、Cの罪責を述べなさい。(特別法違反の点は除く。)





民事法短答・12問中の4問

【問1】 次の文章のなかの空欄  ア  〜 ト  を埋めるのにもっとも適当な語句を記入しなさい。

 「物権」と「債権」の区分については種々の説明のしかたがあるが、いずれの説明においても、例外的な事象が含まれていることに留意しなければならない。

 物権は人が物を ア する権利であり、債権は人に請求する権利である、といわれる。しかし、物権のなかには、債務者の総財産の上に成立する  イ など、有体物を客体としないものも含まれている。また、物権が侵害されたときにその侵害の除去等を求めることができるという  ウ  権があることからしても、物権が人に請求する契機をもたないわけではない。

 物権は、誰に対しても主張することができる  エ  的効力を有するのに対し、債権は、特別な関係に入った者に対してのみ主張できる  オ 的効力しか有しないとされる。債権の  オ 効については、たとえば、自己所有の物件をBに売却する旨の契約をBと締結したAが、これをCに売却したため、BがAに対して有する目的物引渡請求権が後発的  カ に陥った場合、Bは、Aに対しては損害賠償請求や契約の キ  を主張することができても、Cに対しては原則として法的責任を問いえない、といった形で説明される。また、物権と債権の相違を示す別の例をあげると、売買契約において、売主は、買主が代金を未払いのうちは、契約の効力として  ク を主張し、買主からの目的物引渡請求を拒むことができるが、物権たる  ケ を主張すれば、買主から目的物を譲り受けた者に対しても、引渡しを拒むことができる。

 もっとも、債権者が、債務者以外の第三者に何らの主張もなしえないというわけではない。たとえば、債務者の責任財産を保全するための制度として、債権者代位権や コ 権が債権者には認められている。ちなみに、債権者代位権については、金銭債権ではなく  サ  債権の保全のための「転用」も一般に認められており、この場合、判例は債務者の  シ  を必要としないとしている。近時あらわれた判例が、抵当不動産の不法占有者に対して  ス  が有する妨害排除請求権を抵当権者が代位行使できるとしたことが注目される。

 また、第三者による債権侵害が  セ  を構成するとして、債権者に損害賠償請求権が認められる場合がある。なお、この場合の要件に関しては、侵害者に故意をこえた害意のあることや、侵害態様につき強度の  ソ  が必要である等とする議論がある。

債権の  オ 効に関連する事項として、契約当事者間での特約が第三者に対して効力を有するか、という問題もある。銀行が定期預金者に貸付をするさいには、「債務者の預金債権について差押え等がなされ、その通知が発送されたときは、債務者は  タ を喪失し、かつその時にはただちに預金債権を  チ とし、貸付金債権を  ツ とする相殺を銀行は行う」旨の相殺予約がなされる。判例では、相殺予約の  テ 的機能を重視し、この特約が差押債権者に対しても効力を有する旨判断している。ただし、特約の対外効については、特約が第三者に  ト されるものではない以上、その判断は一般に慎重たるべきことがいわれている。


【問2】 Aを売主、Bを買主とする土地甲の売買契約が締結され、登記が移転された。その後、売買契約が取り消されたが、Bは自らに登記があることを利用して、土地甲をCに譲渡した。この事案におけるAC間の法律関係については、大別すると、対抗問題として構成する考え方と、公信問題として構成する考え方が示されている。それぞれの考え方によると具体的にどのような処理がなされることになるか、200字以内で説明しなさい。


【問3】 民法上の「隔地者間契約における承諾の発信主義」について、200字以内で説明しなさい。


【問10】 以下の事項についてそれぞれ200字以内で説明しなさい。

@商人の諾否通知義務

A裏書禁止手形



民事法論述・2問中の2問

【問題1】
以下の問題文を読んで下の問(1)(2)に答えなさい。解答は、設問ごとに分けて記すこと。

Aは、平成17年7月、甲県で別荘地を開発して分譲しているB会社との間で、土地付別荘(以下、「本件別荘」という。)を3000万円で買い受ける契約(以下、「売買契約」という。)を締結するとともに、C銀行から3000万円を借り入れ(以下、「ローン契約」という。)、これをCにおけるBの預金口座へ振り込んで、代金を一括払いした。BC間には、Bが開発分譲している別荘について、BがCに紹介する購入者に対し、Cは5000万円までは購入者の信用調査を個別にすることなく貸し付ける旨の契約があり、また、Bの購入者への分譲条件では、購入者が銀行から借り入れをする場合には、必ずCから借り入れなければならないこととされていた。

Aは、もともと、自然の中での生活に憧れて別荘を探していろいろな物件を見学していたが、どれも決め手を欠いていたところ、たまたま平成17年4月頃の新聞に本件別荘の広告が出ているのを見た。そこでは、「温泉付別荘でお正月を!」と銘打って、地元業者であるDが付近で温泉を採掘したので、別荘地には温泉が供給されていることが大々的に宣伝されており、年内に成約した場合には1000万円の特別割引があることとされていた。そこでAは、無料現地見学会に参加するなどした結果、温泉が最後の決め手となって購入を決意したのであった。本件別荘の売買契約には、温泉のことは記載されていなかったが、売買契約と同時に、BがDの代理人として、AD間での温泉供給契約が締結された(以下、「供給契約」という。)。BとDとの間には、Bが分譲する別荘にDが温泉を供給し、別荘購入者との間の個別の供給契約は、BがDを代理して締結する旨の契約が存在していた。

同年7月末に入居後1ヵ月余りは、別荘に何の問題もなく、湯量も豊富で、Aは快適な別荘ライフを満喫していたが、同年9月に入ったところで突然供給される湯の出が悪くなった。Aら居住者の申し出によってDが調査した結果、原因は定かでないが、今後はチョロチョロ程度しか温泉が出なくなるであろうことが判明した。Aは、Dに対して、十分な調査をしないで掘るからだと文句を言ったが、Dからは、温泉を掘り当てて自分の家庭用に使っていたところ、Bが付近に別荘地を開発するので、その目玉としてぜひとも専属で温泉を供給するようにしてくれないかと懇請され、やむなく応じただけであって、自分の知ったことではないと反論される始末であった。温泉がまったく供給されなくなった場合には、本件別荘の市場価格が2000万円程度にまで下がることが見込まれるとともに、温泉を本件別荘へ引き込む配管工事のために別途オプションとして支出していた50万円がまったく無駄になってしまう。

そこで、Aは、このような状態では本件別荘を購入した意味が半減してしまうとして、同年9月末には本件別荘を引き払うとともに、Cへのローンの支払いを停止してしまった。Aとしては、できればいっそのこと入居していた2か月分の別荘・温泉利用にかかった費用をホテル代だと思って払う代わりに、Aが締結したすべての契約をなかったことにして、新たに別の場所で別荘を探したいと考えている。

(1)Aは、Dに対してどのような主張をすることができるか。

(2)Aは、B、Cに対して、それぞれどのような主張をすることができるか。

※ 各設問とも、あなたがAから依頼を受けた弁護士であるという立場から考えなさい。


【問題2】
[解答は、平成17年改正商法および同年制定「会社法」に拠ること。]

Y社は建設業を営む株式会社であり、A株式会社(以下A社と呼ぶ。)の総株主の議決権数の30%を有し、同社を事実上支配している。A社は家屋のリフォーム事業を全国展開しているが、Y社はA社の関東以北の支店をY社が直轄することが経営戦略上適当であるとして、A社からその関東以北の支店を譲り受けることにした。

Y社の法務担当は、この取引を行うに際して、どのような点に留意すべきか。