2005年度(平成17年度)入学試験法学既修者選抜試験(問題例)


 2005年度入学試験法学既修者選抜試験の出題問題のうち、いくつかを問題例として掲げる。なお、各科目の出題形式が、以下の問題例の形式に限られるわけではない。科目内容や出題形式については、募集要項の記述を参照すること。

公法・短答式問題

公法・論述式問題

刑事法・短答式問題

刑事法・論述式問題

民事法・短答式問題

民事法・論述式問題

公法・短答式問題
 公法・短答式問題は7問出題された。以下に掲げるのは、そのうちの2問である。


【問題例1】 選挙に関するつぎの記述のうち、正しいものには○、誤っているものには×をつけなさい。

1 選挙権は、実際に選挙において投票できる保障があってこそ意味をもつが、現在、外国に在住する日本国民には投票の機会が保障されておらず、これらの国民の選挙権は事実上否定された状態にある。

2 普通選挙の原則は、とくに納税額や財産によって選挙権・被選挙権の享有を差別する制限選挙制を否定するものとして、近代選挙の重要な原則であるが、日本では、日本国憲法のもとではじめて、この原則が確立された。

3 日本国憲法は、普通選挙についてはこれを明文で保障しているが、選挙権の内容の平等、すなわち投票価値の平等については、これを直接規定する条項をもたない。

4 日本国憲法には直接選挙を保障する規定は存在しないので、地方公共団体の長の選挙につき、有権者がまず選挙人を選びその選挙人が長を選挙するという間接選挙制をとることも、憲法上は不可能ではない。

5 本来選挙権のない者が投票した場合、それは当然無効投票となるが、当選の効力を決定する手続において、当該投票が誰に対してなされたかを調べることは、憲法の保障する投票の秘密を侵害することとなるから許されない、とするのが、最高裁判例の立場である。


【問題例2】 行政法令における罰則等の仕組みについてのつぎの記述のうち、正しいものには○、誤っているものに×をつけなさい。

1 暴力団対策法では、指定暴力団が法違反を繰り返す場合は、国家公安委員会が活動禁止命令を発し、それでも是正の見込みがない場合は、解散命令を発することができる。

2 道路交通法では、道路通行者が道路標識等により横断が禁止されている道路部分を通行しても、それだけで罰せられることはなく、警察官等による指示に従わないときに罰則が適用される。

3 農地法では、農地等の権利移動には許可を要し、無許可による行為を無効とするとともに罰則をも定めている。

4 建築基準法では、危険な違法建築物については建築主事による工事の中止命令や使用禁止等の命令を経るまでもなく、ただちに罰則が適用される。

5 ストーカー行為等規制法では、つきまとい等を行った者に対しては、ただちに罰則を適用するものとしている。

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公法・論述式問題
 公法・論述式問題は、以下に掲げる1問である。


【問題例1】
 Xらは、Y市市民会館のホールにおいて「高速道路建設反対決起集会」の開催をするため、Y市長に対し、市民会館利用条例にもとづいて集会実行委員会名で同ホールの使用許可を申請したところ、Y市長はこの実質的主催者が「過激派」と目される集団であり、この集団の構成員に連続爆破事件の容疑者がいることが報道されており、対立する他の過激派集団による介入も懸念されることから、当該施設を使用させると不測の事態の発生が憂慮され、その結果、周辺住民の平穏な生活が脅かされるとして、市条例第3条第1項第1号(資料参照)に該当することを理由にこれを不許可とした。そこでXはその不許可処分の取消を求めて出訴した。下記の資料と参考になる判例にふれつつ、この事例に含まれる憲法および行政法上の論点について整理し、あなたの見解を述べなさい。

(資料)
地方自治法
 第10章 公の施設
(公の施設)
第244条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
2 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
3 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。

Y市市民会館利用条例
(使用の許可等)
第3条 Y市市民会館を利用しようとする者は、あらかじめ市長の許可を受けなければならない。ただし、次の各号の一に該当するときは、使用を許可しない。
 一 公の秩序をみだすおそれがあると認めるとき。
 二 施設、附属設備その他器具備品等(以下「施設等」という。)を汚損し、破損し、又は滅失するおそれがあると認めるとき。
 三 管理上支障があると認めるとき。
 四 その他市長が適当でないと認めるとき。
2 前項の規定は、許可を受けた事項を変更する場合についても同様とする。
3 市長は、使用を許可する場合において管理上必要があると認めるときは、条件を付けることができる。

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刑事法・短答式問題
 刑事法・短答式問題は5問出題された。以下に掲げるのは、そのうちの2問である。


【問題例1】 以下の文章を読んで、以下の(1)(2)の問いに答えなさい。

 狭義の共犯の従属性には3つのものがある。まず、( ア )従属性では、正犯が( ア )に及んだことが共犯の成立要件かが問われる。通説である共犯従属性説はこれを肯定し、教唆の( イ )を不可罰とする。次に、要素従属性では、共犯成立のために正犯の行為が如何なる性質を備えているべきかが問題となる。極端従属性説によれば、( ウ ) のない者を利用する行為は( エ ) として処罰するか、不可罰とするかしかなくなるが、正犯の( ウ )を要求しない制限従属性説であれば狭義の共犯として処罰できる。最後に、共犯と正犯の( オ ) が同じでなければならないかに関する( オ ) 従属性がある。

(1)上記の( ア )から( オ ) に適切な語句を入れなさい。

(2)共犯従属性説の根拠を400字以内で述べなさい。


【問題例2】 以下の記述のうち、Aに明らかに住居侵入罪・不退去罪が成立しないものを1つ選びなさい。

1.Aは、会社から販売ノルマを課されている商品を知り合いであるBに押売りするため、一人住まいのBの家に行った。しかし、彼が留守だったので、帰宅するまで待とうと思い、Bの留守中にたまたま遊びに来ていたBと共通の友人であるCの承諾を得て、Bの家に立ち入った。

2.Aは、強盗殺人の目的を秘して客を装ってBの住居に侵入した。

3.Aは、千利休の茶碗を展示している美術館に、その茶碗を損壊する意図で入場券を購入して立ち入った。

4.Aは、恋人であるB女(18歳)に自宅(B女と二人暮らしの父親の所有)に招かれ、彼女の部屋に入った。ところが、その30分後に帰宅した彼女の父親から出て行くように言われた。しかし、B女がいてくれとせがむので、そのまま彼女の部屋から出て行かなかった。

5.Aは、一人暮らしであるBを路上で殺害した後、金を盗む目的で彼の住居に侵入した。

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刑事法・論述式問題
 刑事法・論述式問題は、以下に掲げる1問である。

【問題例1】
 Aは、自動車を運転中、前方不注意によって歩行者Xをはね、瀕死の重傷を負わせた。Aは、Xの生命を救うためには緊急手術の必要があると考え、Xを病院に搬送すべく車に乗せて走り出したが、事故の発覚を恐れる気持ちが次第に募って、Xを人目に付かない場所に放置して逃げようと考えるに至り、病院の前を通過して山へと向かった。Xは、病院で手当てを受けることができなかったため、車内で絶命した。山に到着したAは、Xの死体を山林に捨てる際、Xの懐中に財布があるのに気付き、領得の意思を生じてこれを持ち去った。しかし、Aが帰宅途中、車を路上に止め、そこから少し離れている食堂に入り食事をしている間に、たまたま通りかかったBがAの車内にあったこの財布を見つけ、持ち去った。A、Bの罪責について論じなさい。(特別法違反の点は、除く。)

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民事法・短答式問題
 民事法・短答式問題は12問出題された。以下に掲げるのは、そのうちの4問である。

【問題例1】 次の文章のなかの空欄( ア ) 〜( ハ )を埋めるのにもっとも適当な語句を記入しなさい。

 契約法の世界では、契約自由の原則が働き、どのような内容の契約を締結するのも当事者の自由である。これに対し、物権法の世界では、( ア ) 主義がとられており、民法その他の法律に定めたもののほか、物権を創設することはできない。
 物権の中心である所有権は、物の全面的支配権として、( イ ) ・( ウ ) ・( エ ) の3つの権能を有している。この3つのうち一部の権能のみを把握する物権を( オ ) というが、これは( カ )と( キ ) とに大別される。( イ ) ・( ウ ) の権能を把握する( カ ) の代表例は地上権であるが、これは( ク ) または( ケ ) を所有するため他人の土地を使用する権利である。なお、他人の土地を建物所有目的で利用するための権利としては、地上権のほかに( コ )も利用できる。( コ ) は地上権と異なり債権ではあるが、( サ ) 法等の特別法によって対抗力が付与されるなど、「( コ )の( シ ) 」がはかられている。( キ ) の代表例は質権と抵当権であるが、両者の違いは、債権者が目的物を( ス )するか否かにある。また、目的物については、抵当権が不動産に限定されているのに対し、質権は、動産、不動産、( セ ) の3つに設定することができる。
 これらの物権の設定、移転、消滅は、物権変動と呼ばれるが、日本民法は、( ソ )主義および対抗要件主義を採用している。判例によれば、売買契約による特定不動産の所有権移転につき、所有権は特約のないかぎり( タ ) 時に移転し、登記によって対抗力を取得する、とされている。なお、登記による対抗力は、主観的要素に関して、善意・悪意を問うことなく主張できるが、( チ ) は登記の欠缺を主張できない、とするのが判例である。登記は、登記権利者と登記義務者の( ツ ) に基づいて行われる。登記義務者がこれに協力しないときには、登記権利者は( テ )を行使できる。なお、不動産がA→B→Cと移転した場合の登記を、Aから直接Cに移転させることを( ト ) という。
 一方、動産物権変動の対抗要件は、動産の引渡しである。これには4種のものがあり、現実の引渡しのほか、すでに譲受人が所持している物を意思表示だけで移転する( ナ ) 、譲渡人が目的物を譲受人に引き渡さず、以後譲受人のために占有する旨の意思表示をする( 二 ) 、譲渡人が目的物を( ヌ )により占有している場合において( ヌ ) に対し以後譲受人のために占有することを命じ、譲受人がこれを承諾する( ネ )が、動産の引渡しとされる。
 なお、他人の物の占有者がその物を売却した場合、一定の要件をみたせば、買主は所有権を取得できる。これを( ノ ) といい、日本民法は動産には認めるものの、不動産には認めていない。この相違は、流通性の高い動産については、不動産にくらべて(  ハ )の要請をより重視すべきことをあらわすものである。


【問題例2】以下の記述のうち、もっとも不適当なものを1つ選びなさい。

1.債権譲渡の通知は譲渡人から債務者に対して行われなければならないため、譲受人が債権者代位権を行使して通知することはできないが、譲受人が譲渡人の代理人または使者として行った通知は有効である。

2.債務者は、債権譲渡を承諾した後に取得した譲渡人に対する債権を自働債権として、譲渡された債権と相殺することはできない。

3.債権が二重に譲渡された場合、一方の譲渡通知に付された確定日付よりも先に、他方の譲渡通知が債務者に到達すれば、確定日付の有無に関わらず、先に通知が到達した譲渡が優先する。

4.譲渡人に取立権限を留保して集合債権を譲渡担保に供する際に、譲渡通知において譲渡人の取立権限の行使につき債務者に協力を依頼した場合であっても、譲受人は、確定日付のある譲渡通知のみをもって債権譲渡を第三者に対抗することができる。

5.債務者は、債権譲渡登記ファイルに債権譲渡の登記がなされた日付より後に譲渡人に対して生じた事由であっても、譲渡の通知を受けるか、譲渡を承諾する以前のものであれば、譲受人に対抗することができる。


【問題例3】 AがB公益法人の理事としてなした行為に関する以下の記述のうち、もっとも適当なものを1つ選びなさい。

1.定款に、不動産の処分に関する事項については総会の決議を要する旨規定されていたにもかかわらず、Aが独自の判断でB所有の不動産をCに売却した場合、Cがこの定款を知っていたならば、たとえ総会の承認があったと信じていたとしても、Cは契約の有効を主張できない。

2.CがBに賃貸していた土地をAが占有していたが、その後この賃貸借契約が合意解除された場合、Aは、個人のためにも所持していると認められる特別の事情がないかぎり直接占有者としての地位にはたたないため、Cが、BではなくAに対して明渡請求をすることはできない。

3.Aが職務を行うにあたってCに損害を与えたため、CがBに対して損害賠償請求をした場合、Bは、Aの選任・監督につき相当程度の注意を尽くしていたことを立証できないかぎり、Aと連帯して賠償責任を負うこととなる。

4.Aが、Bの代表者として、友人Cに個人的に頼まれて、Cへ1億円を貸し付け、その担保としてC所有の土地に抵当権の設定を受けた場合において、「法人の目的の範囲外」の行為であることを理由に、Bがこの貸付けの無効を主張したとき、Bの抵当権がBのCに対する不当利得返還請求権を被担保債権として存続することはない。

5.Aが私利を得る意図でCと取引をなした場合において、CがこのAの背信的意図につき、悪意か、または知らなかったことに過失があるときには、Bは無効を主張することができるが、このことは、Aの当該取引が法人の目的の範囲内であると範囲外であるとを問わず、妥当する。


【問題例4】 以下の事項について、それぞれ200字以内で説明しなさい。

   @ 免責的登記事項

   A 確定期売買

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民事法・論述式問題
 民事法・論述式問題は2問出題された。以下に掲げるのは、そのうちの1問である。

【問題例1】
 以下の設例につき、問1〜3に答えなさい。なお、解答は問1〜3に分けて記すこと。

 Aは、野球賭博の胴元であり、Bはその常連客であった。この年、Bは、4月から賭博に負け続け、7月には負債額が1500万円に達した。その段階で、Bは、12月1日には確実にAに1500万円を返済することを約し、AB両名は、8月1日付けで金銭消費貸借契約書を作成し、それに署名捺印した。そのさい、Aは、1500万円の支払いを確実にするために担保の提供を要求し、Bは、AB間においてある種の取引があることを基礎として、自己所有の土地上にAのために極度額5000万円の根抵当権を設定した。根抵当としたのは、野球賭博を続けたいのであれば、多めに枠を設ける必要があると、Aが言ったためであった。
 Bはその後も賭博に負け続け、9月末には負債総額は4000万円になった。Aの要求で、10月1日に、AB両名は、残額2500万円についても金銭消費貸借契約書を作成し、返済日を12月1日とした。
 11月30日、BはAに呼び出され、明日の返済が可能であるか否かを尋ねられた。Bが金策ができていない旨を答えると、AはBに対して次のように言った。「自分も金繰りに窮しているのだが、Cさんが、(AがBに対して有する)4000万円の債権を根抵当権付きで買い取ったうえ、来年4月1日までBの返済を待ってやっても良い、とおっしゃっている。ただ、Cさんには8月1日付けと10月1日付けの金銭消費貸借契約書をお見せしたが、Cさんはこれを通常の金の貸し借りと思っていらっしゃるので、野球賭博のことは言うんじゃないぞ。それでいいか。」Bは、とりあえず4月1日までの猶予が得られるのであれば何よりであると思い、「おっしゃるとおりにします。よろしくお願いします。」と答えた。その結果、Cは、金貸しでもないAがなぜBに4000万円も貸したのかをいぶかりながらも、4000万円の債権を根抵当権付きで買い取った。
 その後、Bは、たまたま出席した高校のクラス会で弁護士となっている友人にこの間のやりとりを話したところ、その友人の弁護士は、「相手もよく考えているな、お前ははめられたんだよ。」と言った。

〔問1〕 Bは、Cが根抵当権を実行する前に、何らかの手を打ち、自分の土地を失うことも、4000万円の弁済をすることも免れたいと考えている。それをBが主張するためには、どのような法律構成が考えられるかを述べなさい。

〔問2〕 Cは、自己が有効にBに対する4000万円の債権と根抵当権を取得していると主張したいと思っている。そのための法律構成として考えられるものをすべて述べなさい。また、Cが自らを守るために、4000万円の債権と根抵当権の取得を主張する以外に、何らかの請求をBにすることは可能か。可能であるとすれば、その法律構成も述べなさい。

〔問3〕 あなたが裁判官だとしたら、問1、問2におけるB、Cの主張をふまえ、この事件につきどのような判決を下すかを述べなさい。

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