2007年度(平成19年度)入学試験法学既修者選抜試験


 2007年度入学試験法学既修者選抜試験の問題を掲げる。なお、各科目の出題形式は、以下のようなものに限られるわけではない。科目内容や出題形式については、募集要項を参照すること。


      公法

     刑事法

     民事法




公法

【問1】 以下の事項について、それぞれ200字から400字の範囲で説明しなさい。

@司法積極主義と司法消極主義

A行政行為の瑕疵に関する「重大かつ明白説」への批判


【問2】 昨今、街角や公的な建築物・施設のあちこちに「防犯カメラ」が設置されている。
そこで、以下の小問に、それぞれ500字以内で答えなさい。  

(1)こうした現象を「人権」の視点からどのように見るかにつき、見解を述べなさい。

(2)「防犯カメラ」の設置には法律(条例)の根拠が必要ではないか、という意見がある。その趣旨を敷衍しつつ、
そこにおける論点をあげて見解を述べなさい。




刑事法

【問1】 以下の事項について、それぞれ100字から300字の範囲内で説明しなさい。

@危険犯

A有形偽造

B責任説


【問2】 以下の事例について、A、Bの罪責を論じなさい。(ただし、特別法違反の点は除く。)

 A、B、Cは現金輸送車を襲って現金を奪う計画を立てた。相手に対する多少の実力行使は辞さないが、傷害を
負わせないこと、各人が装填された拳銃を威嚇用に持つが、相手の身体に向けて発砲しないことを取り決めた。
 犯行当日、3人は、道路脇で現金輸送車を待ち伏せし、近づいてくる車を確認するやそれぞれが拳銃を振り回
しながら道路に飛び出して、輸送車を停車させた、しかし運転手Mが急発進しようとしたのでAはその頭部めがけ
て発砲し、命中させた。3人は瀕死のMを抱えて車から降ろし、同乗していた警備員Nにも拳銃を向けて車から降
りるよう命じ、計画通り、警察に通報できないようにMとNの携帯電話を後で捨てるつもりで奪ったが、その時、M
が隠し持っていたナイフでCの腹部を刺し、その直後にMは息絶えた。
 A、BはCを助けて3人で現金輸送車に乗り込み、発進させ、約30分後、人目につかない山中の空地に到着し、
予定通り奪った現金をそこに用意しておいた別の車に積み替え、M、Nの携帯電話を草むらに捨てた。Cは出血が
激しく、すでに意識を失っていた。A、BはCを病院に連れて行かなければ死ぬだろうと考えたが、犯行の発覚を恐
れて、Cを現金輸送車の中に残したまま逃走した。Cはその数時間後に出血多量で死亡したが、鑑定の結果、空
地から直ちに病院に搬送されていれば、確実に助かっていたであろうことが判明した。




民事法

【問1】 以下の事項について、それぞれ200字から400字の範囲内で説明しなさい。

@権利能力なき社団・財団における不動産の帰属

A瑕疵の修補請求と瑕疵担保責任の関係

B無権代理と表見代理の関係

C債権侵害による不法行為の成立


【問2】 以下の事例について、各小問に答えなさい。

 Aは、Bに対する貸金債権を担保するため、Bの所有地に抵当権の設定を受けた。Bは、Xにその土地を売却す
るさい、BのAに対する債務をXが支払う代わりに、その分だけ、売却代金を安価に定めることにした。この合意に
したがい、XはAにBの債務を弁済するとともに、売却代金をBに支払った。その翌日、AはBに対する貸金債権を
抵当権とともにCに譲渡し、抵当権移転の付記登記を経由した。この債権譲渡には、Bの確定日付のある承諾が
ある。

(1)XのAに対する支払いの法的根拠はいかなるものか。この合意が@A・B・Xの三者間でなされた場合と、AB・X
のみによってなされた場合のそれぞれについて論じなさい。

(2)Xは、A、Bに対し、いかなる請求をなしうるか。(1)に述べた@、Aのそれぞれにつき法条の根拠をあげたうえ
で答えなさい。

(3)Xは、Cに対し、抵当権の抹消登記手続を求めることができるか。法的根拠を示して論じなさい。


【問3】 以下の事項について、それぞれ100字から300字の範囲内で説明しなさい。

@親会社・子会社

A匿名組合

B手形法における「人的抗弁の切断」


【問4】 以下の事例について、各小問に答えなさい。

 甲株式会社は、発行済株式総数10,000株のうち、代表取締役であるAが6,500株、Aの叔父であるNが3,500株
を有する取締役会設置会社であり、Aの先代MがNの助力も得ながら創業した機械部品製造業を長年にわたり営
んでいた。ちなみに、甲社は普通株式のみを発行しており、定款で株式の譲渡制限の定めを設けている。取締役
はAおよびAの子供であるC・D兄弟の3名である。
 ところが、平成18年5月初めに、Nが急死した。Nの相続人はBのみである。AはNが死亡して2か月ほどが過ぎた
後、Bに対し、BがNから相続した甲株式会社の3,500株を、Aの側に売ってもらえないだろうかという話を持ちかけた。

(1)BがこのAからの話に応じて、法的には3,500株を売らなければならない場合がありうるとすれば、どのような
場合かを述べなさい。その場合において、Bとしては売らざるをえないと考えるに至ったが、値段について折り合
いがつかないときは、どのようにしたらよいかを述べなさい。

 先の事例において、BはAの申し出を拒否した。Bは平成18年12月の初めにたまたま甲株式会社の登記を見た
ところ、甲株式会社の発行済株式総数は12,000株であると記載されていたので驚いた。Aに問い合わせたところ、
「9月にCとDに1,000株ずつ、1株1万円で新規発行した」という。しかしBは、本当に払い込みがなされたか否かさ
え疑わしいと思う。

(2)会社法上、Bに、CやDの払込みの有無を調査する方法が保障されているかを述べなさい。

 Bが調査したところ、確かにCとDはそれぞれ1,000万円ずつ払い込んでいた。また1株1万円という金額を、特に
有利な金額であると主張・立証するのは難しそうである。しかしBは、まったくBに知らされないうちに、このような
事態となっていることに、納得がいかない。

(3)1株1万円の払込金額が不公正であるとはいえない場合であっても、Bがこの株式の発行によって不利益を
蒙ると懸念しているとすればそれはなぜか。その理由を述べなさい。

(4)Bは、CとDが甲株式会社の株主とは認められないことを、裁判に訴えて争いたいと思い、弁護士に相談した。
Bから依頼された弁護士としては、どのように争うことが考えられるか。理由とともに述べなさい。

(5)あなたが裁判官であるとしたら、上記Bの提起した訴訟において、どのような判断を下すか。理由とともに述べ
なさい。