モンゴル短期調査報告書



はじめに・・・・・・・・・・・・・・・1ページ

短期調査の概要・・・・・・・・1〜3ページ

調査内容・・・・・・・・・・・・・・3〜20ページ


はじめに

 本報告書は、文部科学省科学研究費補助金(特定領域B)「アジア法整備支援〜体制移行国に対する法整備支援のパラダイム構築〜」(名古屋大学法政国際教育協力研究センター)により開始された「モンゴル国における土地法制の諸問題」に関する研究の一環として実施された短期調査の内容を報告するものである。

 本調査は、現地協力者であるB.アマルサナー氏、シャグダルスレン氏の協力および訪問先の各機関のご好意により実現したものである。ここに記して、感謝したい。


<短期調査の概要>

1.日程: 200427日(土)〜13日(金)

2.参加者:

   杉浦一孝(団長:名古屋大学法政国際教育協力研究センター長)

   加藤久和(名古屋大学大学院法学研究科)

   齋藤隆夫(東京法科大学院)

   中村真咲(名古屋大学大学院国際開発研究科 博士後期課程)

  現地協力者:

   B.アマルサナ−(モンゴル国立大学法学部講師)

   シャグダルスレン(モンゴル国立中央銀行)

3.訪問目的:

1)研究テーマにかかわる問題点を明らかにし、同テーマでのモンゴル側との共同研究およびこれを通しての国際協力の可能性を探る。

2)日本法教育研究センターの設立について、JICA・日本大使館と意見交換をする。

4.訪問先:

28日(日)

   (日本の法学部で学んだ)帰国留学生へのインタビュー

     B.アマルサナー(モンゴル国立大学法学部講師、名大大学院法学研究科修了)

     A.アマリン(私法研究センター代表、一橋大法学部卒業、東大大学院法学研究科修了)

     シャグダルスレン(モンゴル国立中央銀行、東大法学部卒業、東大大学院法学研究科修了)

29日(月)

国立法律研究・研修・情報センター

モンゴル国立大学法学部エンフメンド講師(環境法)

サント・マラル財団(社会調査NGO

210日(火)

モンゴル国立大学法学部ルンデンドルジ教授(副学部長)

モンゴル科学アカデミー哲学・社会学・法学研究所アマルサナ−教授

土地関係・測地および地図製作管理局(土地管理局)

211日(水)

USAID司法改革プロジェクト事務所

JICAモンゴル事務所

モンゴル国立大学外国語学部日本語学科ドルゴル教授

オトゴンテンゲル大学法学部バーサン教授(副学部長)、オヤンガ講師(民法)

ハンス財団事務所(モンゴル国立大学法学部内)

世界銀行司法改革プロジェクト事務所(法務内務省内)

ダンバダルジャー地区のゲル地区視察

212日(木)

日本大使館

モンゴル・日本センター

GTZ事務所(法務内務省内)

モンゴル国立大学学長

首都裁判所

モンゴル国立大学法学部ルンデンドルジ教授(副学部長)

5.訪問の成果総括:

  1. 研究テーマにかかわる問題点について

土地管理局、首都裁判所などの訪問により、土地法施行後の状況が明らかになった。それによれば、土地所有法の施行後25,000世帯が土地私有を申請したこと、土地私有を推進するために土地税を下げたこと、土地法・土地所有法を巡る訴訟はまだ起きていないが、不動産に関する民事訴訟(特に、アパートの賃貸借に関する訴訟)は、かなり起きていること、などである。

  1. 共同研究の可能性について

モンゴル科学アカデミー哲学・社会学・法学研究所、モンゴル国立大学法学部、国立法律センターと今後の共同研究について協議することができ、各機関とも共同研究に理解を示した。モンゴル国立大学法学部のルンデンドルジ副学部長および国立法律センター長のアマルサナ−教授からは、共同研究の方向性として、@首都・地方で実際に起きている紛争の調査、A法律上の問題の検討、という2つの方向からの研究が提案された。

また、519日にモンゴル国立法律センターが開館し、翌20日にはその国際シンポジウム「モンゴルにおける法制度の改革」が開催される予定になっており、名古屋大学にも参加が要請された。

  1. 日本法教育研究センターの設立について

 日本法教育研究センターの設立について、日本大使館、JICAモンゴル事務所より賛同を受けると共に、今後の課題を確認した。当初は、モンゴル日本センターを活用する方向で考えていたが、日本大使館・JICAモンゴル事務所・モンゴル日本センターから、手続的にそれは難しいとの説明を受け、モンゴル国立大学内に単独の「日本法教育研究センター」として設立する方向で検討する方が良い、と助言を受けた。また、モンゴル国立大学からも、その設置のために全面的に協力する旨、返答を得た。

モンゴル国における法学教育について、世界銀行、GTZ、ハンス財団、USAIDがこれまでに支援しているが、その中でもハンス財団の実施している帰国留学生へのフォローアップは充実しており、参考にするべき点が多いように思われた。

また、日本の大学法学部に留学し帰国した元留学生達からも、日本法を継続して学ぶためのフォローアップや設備が現在ほとんどないので、「日本法教育研究センター」のような機関が設立されることを希望するということであった。



<調査内容>

1.(日本の法学部で学んだ)帰国留学生へのインタビュー

日時: 200428日(日)

場所: さくらベーカリー(ツェレンドルジ通り)

対象者: B.アマルサナー(モンゴル国立大学法学部講師、名大大学院法学研究科修了)

      A.アマリン(私法研究センター代表、一橋大法学部卒業、東大大学院法学研究科修了)

      シャグダルスレン(モンゴル国立中央銀行、東大法学部卒業、東大大学院法学研究科修了)

訪問者: 加藤、中村

  1. 日本での留学内容および帰国後の状況

(B.アマルサナ−)

200010月から20029月まで、名古屋大学大学院法学研究科の修士課程に留学し、会社法を学んだ。帰国後は、モンゴル国立大学法学部の講師。2002年より弁護士。

(A.アマリン)

1995年から1999年まで、一橋大学法学部にて私法、特に不良債権処理の問題について学ぶ。1999年から2001年まで、東京大学大学院法学研究科の修士課程にて、比較法、特に法と経済について学ぶ。2001年から2003年まで、アンダーセン法律事務所(後にKP&G)にて法律実務を行う。2003年にモンゴルに帰国し、「私法研究センター」というNGOを有志で立ち上げ、その代表を務めている。私法研究センターは、法務内務省の認可も受け、これから研究や出版活動を行って行く予定である。特に、企業統治のあり方、子会社と関連会社の関係、知的財産などについて、積極的に発言していきたい。運営に当たっては、外国の援助機関などからの支援は、一切受けていない。2003年より弁護士。

(シャグダルスレン)

 1997年から2001年まで、東京大学法学部で私法を学ぶ。2001年から2003年まで、東京大学大学院法学研究科の修士課程にて、国際私法と国際金融について学ぶ。2003年にモンゴルに帰国し、国立中央銀行法務部にて勤務している。2003年より弁護士。

  1. 日本に対して望む、留学後のフォローアップ

・文部省留学生には、帰国後2年間は日本の雑誌を2万円/年に購入できるという制度があるが、専門的な雑誌を購入することが認められていない。法律関係では、『法律のひろば』は認められているが、より専門的な『ジュリスト』などを本当は購読したい。

・日本の法学の基本書を読むことができる図書館があると良い。現在のモンゴル・日本センターの図書室には法学関係の書籍はほとんどないので、ここに法学の基本書や雑誌を置いてもらえれば、ありがたい。

NASISLESISが、モンゴルでももっと気軽に利用できるようになると良い。

・帰国後も、1年に何回か日本から法学研究者がモンゴルに来て、専門的な講義を受けられると良い。

・ハンス財団によりドイツに留学した人たちは、定期的に集まったり、指導教官がモンゴルに来たりしている。このような制度を日本にも参考にしてもらいたい。

  1. モンゴル法の状況

・法律が増えて、フォローできない

・コンメンタールがない。

・法律の起草委員会は、基礎的な概念を理解しないで法律を作っている。

・判例公開の要求は出てきているが、まだ実現していない。しかし、判例研究の授業をこれから行おうという動きもある。

・法律関係のNGOで実際に活動しているのは、5〜6団体くらい。

・法律事務所は5060あるが、そのうち有限会社になっているものは10くらい。

  1. 土地法について

・手続が不透明であり、行政の裁量が大きい。

・土地私有化法では「世帯」が土地私有の単位となっているので、その登録手続の過程で「家族の概念」(民法、家族法にはない)が徐々に出来始めてきている(同居している、結婚している、など)。

・土地管理局が、土地をめぐる紛争について行政手続を行う。

・土地法の施行後、土地の買占めや国有地を実質的に不法所有してしまう、ということは身近には起きていない。

・銀行は、建物を担保にしている。


2.国立法律研究・研修・情報センター

日時:200428日(月)

場所:国立法律研究・研修・情報センター(国立文書館事務局の2階)

対応者:D.バヤンビレグ(センター長)

訪問者:加藤、中村、アマルサナ−

1)概要

2002年に法務内務省によって設立された、法律研究・研修・情報のための機関。それまでにあった4つの関連機関が一つに統合された。

20045月に国立法律センターが設立されたら、そこに移転する予定である。

・最高裁判所による法律の解説、研究者によるアカデミックな法律の解説などを出版している。出版に当たっては、USAIDやハンス財団の支援を受けている。

2)出版活動など

・最新の法令を掲載した「法律情報」という冊子を毎月2回発行し(1冊500tg)、各県の各機関に配布している。これは、1970年から発行されているが、バックナンバーが全て保管されているわけではない。

・法律関係のニュースを掲載した「法律ニュース」という新聞を月2回発行している(300tg)。

・法律研究者の研究論文を載せる「法律を尊重する伝統」という紀要を季刊で発行している。

・過去には、主要な法律を英訳して収録した”Selected Commercial Laws of Mongolia”2002)という本を出版した(憲法、民法、家族法、会社法、銀行法、労働法、環境保護法など)。

・韓国とは、20039月に協定を結んでおり、韓国法の英語訳を収録した本の寄贈を受けたり、韓国から法律研究者達が当センターを訪問したりしている。


3.モンゴル国立大学法学部

日時:28日(月)

会場:モンゴル国立大学法学部

対応者:S.エンフメンド講師(環境法)

訪問者:加藤、中村、アマルサナ−

1)経歴

1999年から、モンゴル国立大学法学部の講師をしている(国家・行政法学科)。修士では憲法裁判所の判例分析を行ったが、博士課程に入ってから環境法の研究にテーマを変えた。

2)モンゴルの環境法と土地法

・モンゴルで環境法は重要だが、それを研究している人は少ない。

・モンゴルには、約300の法律があるが、そのうち60の法律が土地に関係する法律。

・土地計画については、環境省と土地管理局が決める。土地測量局は、土地の測量を行うが決定はしない。地方政府がそれを元に土地計画の案を作り、地方政府から内閣に送り、国会で承認を受ける。

・名古屋大学と土地法問題について共同研究するなら、具体的な紛争の事例を提供することができるだろう。


4.サント・マラル基金

日時:28日(月)

会場:サント・マラル基金事務所(モンゴル民主化同盟2階)

対応者:L.スマティ(代表)

訪問者:加藤、中村、アマルサナ−

1)概要

1992年に設立された、社会調査・市場調査を行うNGOである。過去に、USAIDGTZ、世界銀行などの仕事を受注した。

JICAや日本企業の仕事をしたことはないが、最近、三井物産と契約のみを結んだ。

・スタッフの数は少ないが、必要に応じて外部の研究者・実務家と契約を結んで仕事を進めている。

・法整備の調査の仕事もしたことがある。その際は、アメリカの法律家と契約を結んで仕事をした。

・土地法、土地利用について調査したことはないが、重要なテーマだと認識している。今後、名古屋大学のプロジェクトと協力していければ良いと思う。

2)土地法に関する世論調査

 当基金が200310月に実施した世論調査(首都、フブスグル県、ホブド県、スフバートル県、ウブルハンガイ県にて実施)によれば以下のようになっており、土地法に対する批判・法律に対する不信感が国民の間で強いことが良く分かる(「政治指標20」、200310月)。


・現政権の最大の成果として、第4位が(土地を含む)私有化。

・現政権の最大の失敗として、第1位が(土地を含む)私有化、第5位は法律が機能していないこと。

・今日のモンゴル国における政治社会・経済分野で最も重要な問題として、第10位は法律が機能していないこと。


5.モンゴル国立大学法学部

日時:210

場所:モンゴル国立大学法学部

対応者:ルンデンドルジ教授(副学部長、モンゴル国立大学評議員)

訪問者:杉浦、加藤、齋藤、中村、アマルサナ−、シャグダルスレン

1)これまでの名古屋大学との関係について

・名古屋大学にモンゴル法研究会ができたということは、モンゴル国立大学と名古屋大学の協力関係が新しい時代に入った、ということであると思う。

2)日本法教育研究センターについて

・モンゴルにとって、近隣諸国の法制度の比較研究が重要になっている。これまでは西欧ばかり見て、アジア諸国の法制度については関心が低かった。しかし、日本との関係はモンゴルにとって重要であり、日本の法制度について学び、長期的パートナーとしてつきあっていく必要がある。日本法教育研究センターができれば、日本法の研究・教育の拠点になる。また、共同研究の拠点にもなるだろう。日本法教育研究センターが設立されれば、やれることは多い。

・日本法教育研究センターの設立のために、モンゴル国立大学の設備を提供することができる。

3)土地法に関する共同研究について

・共同研究のために、双方から人を出すのが良いだろう。

・モンゴル国立大学が情報を提供し、名古屋大学が研究する、という方法もある。名古屋大学には、研究の方向性・方法論を指導してもらいたい。

・モンゴルには、土地法を深く研究している人は少ない。モンゴルにとって、土地法問題は新しい領域であり、政治家にとっても学者にとっても未経験の問題である。

・土地の保護と利用は、セットでなければうまくいかない。

・土地法は、政治的にも問題が多いことに気を付けなければならない。現在行われている土地私有化は、全国民のために行われているのではなく、一部の政治家のために行われている、と言う人々もいる。だから、今後の土地私有の方向がどうなるかは、まだ分からない。

4)モンゴル法の状況について

・モンゴルの民法・刑法には、外国法を直訳している条文が多数ある。国際的な基準と民族的なものの調整をとっていく必要があり、個人的にもそのような研究をしている。新しい法律を作っても、モンゴルの地で機能していくか心配している。そのような視点から、モンゴル法研究会がモンゴル法を研究しようとしていることを歓迎している。

・ドイツ人はドイツ法が一番良いと言い、アメリカ人が来るとアメリカ法の素晴らしさを言う。そのような状況で、モンゴルはそれら全ての人の言うことを聞くしかなかった。しかし、モンゴルにとって、モンゴルがどの法体系に属するかは重要ではない。モンゴルにとって一番良い法制度を作ることが重要である。ドイツ人やアメリカ人には、アジア人のメンタリティーを日本人のようには理解できないのかもしれない。

・モンゴルには、民法学者が少ない。民法は一番重要な法律なのに、その研究者がいないということは問題である。名古屋大学への留学生派遣や共同研究を通して、民法の研究者を養成する必要があると思う。

・アマルサナ−講師のように、日本で学んだ人が、今後の日本との協力の核になっていかなければならない。


6.モンゴル科学アカデミー哲学・社会学・法学研究所

日時:210日(火)

会場:モンゴル国立大学法学部

対応者:J.アマルサナ−教授(法学部門責任者)

訪問者:杉浦、加藤、齋藤、中村、アマルサナ−、シャグダルスレン

1)名古屋大学と関係について

・モンゴル国立大学法学部と名古屋大学法学部の協力関係は、うまく進んでいると思う。モンゴル国立大学法学部は、日本との協力関係を築いている、と言うよりも、名古屋大学との関係がうまくいっていると思っている。モンゴル国立大学から名古屋大学に留学生が一方的に行っているのではなく、名古屋大学からも留学生が来て、モンゴル国立大学の研究者と一緒に研究している、という点が大変良い。

2)モンゴル科学アカデミー哲学・社会学・法学研究所について

1975年にモンゴル国立大学法学部を卒業し、現在は、モンゴル国立大学法学部国際法学科の学科長、憲法裁判所の裁判官、モンゴル科学アカデミー哲学・社会学・法学研究所の法学部門責任者を務めている。2002年にはモンゴル科学アカデミー哲学・社会学・法学研究所に法学研究センターが設立され、その所長に任命された。2002年には、アカデミー会員にもなった。

・現在、法学研究センターでは、「モンゴルの法律システム」という研究を進めている。

3)国立法律センターについて

・法務内務省の下に「国立法律センター」が設置され、そこでは@実務家の養成、A研究、B情報発信を行っている。

・現在、世界銀行の融資で国立法律センターの建物を建設しており、今年の519日に開所式、520日に国際シンポジウム「モンゴルにおける法制度の改革」を開催する。可能なら、名古屋大学からもシンポジウムに参加してほしい。

・研究テーマとして、今年は@裁判所の独立、A国民の法意識調査、を行う。

・それ以外には、法令集・研究書の出版、ウランバートルと地方での法律家の研修を行っている。これらの活動を関連付けながら行うつもりである。

・出版については、今年は、GTZの支援による民法・民訴法に関する教材(10冊以上)、USAIDの司法改革プログラムの支援による刑法・刑訴法に関する教材、世界銀行の支援による行政裁判のマニュアル(10冊)などを出版する予定である。

・研修については、世界銀行の協力で裁判所に行政部を設立するので、その裁判官や教官の育成を行う。入札により、ハンス財団がそれを行うことが決まった。裁判所の行政部は、今年の6月から活動を開始する予定である。行政部の裁判官希望者に対する選抜や教育は、これから行う予定である。

・今年は、モンゴル最初の憲法の制定80周年の年であり、それを記念する大統領令が出たので、それに関する出版を行う予定である。1206年から2006年に出た2500の法律を収めた法令集を出す。

4)土地法問題について

・土地法の研究も、研究で終わらせるのではなく、その成果を裁判官などへの研修に役立てるべきである。

1992年憲法で土地私有を認めるにあたり、大きな議論が起きた。当時は、国家大会議と小会議の2院制で、3人の法律顧問がいた。当時は、地方の長が議員の大半を占めていたので、彼らは土地私有に反対した。土地法が1994年に制定された後も、土地私有に反対の動きは強かった。人民革命党が野党の時には、「憲法の『土地私有できる』という規定は、『国民に土地私有させなければならない』という意味ではない」と主張していた。しかし、2000年に人民革命党が政権を取ると、姿勢を180度変えた。

・憲法裁判所に10年前に「土地私有の権利を国家大会議が邪魔している」と訴訟が提起されたこともあった。

・外から見れば、2002年の土地法の審議は短い期間に行われ、その過程は不透明であったように見えるかもしれない。しかし、それまでの10年間の議論を考えれば、土地法自体の審議が短かったとは言えないように思う。人民革命党が与党としてやっていることと、民主連合が与党としてやっていたことは、そんなに変わらない。

・憲法で定められている権利が認められたのは事実で、土地所有によって不動産が良くも悪くも確立されるだろう。

1996年にドイツの経験に習って、不動産登記局を作った。当時は、土地私有が認められない限り、私有財産は確立されないと考えていた。名古屋大学とモンゴル国立大学法学部・モンゴル科学アカデミー・国立法律センターとの共同研究で、土地法研究の一環としてモンゴルの不動産の問題を研究したら良いのではないか。

・土地法の研究のために、@法律の条文の研究、A土地に関わる諸機関の活動の調査、特に土地管理局や地方政府がどのような手続きで土地を管理しているか、B土地紛争の裁判の研究・分析を行うべきである。

・社会学的な土地に関する調査は、全国的に行うべきだろう。特に、国民の土地利用に関する意識の調査は、なぜ紛争が起きているのか明らかにするために必要である。

・法意識の調査は全国的に行う必要があるが、具体的事例は一つの地域を選んで行うのが良いだろう。

・また、地方の住民が都市に移住している原因の究明、議会の政策決定プロセスを明らかにすることも必要である。

6月中旬の選挙対策のために、今年の45月に都市に移住してきた人達に対しても土地の登記が認められるだろう。選挙のある6月中旬までに、与党の人々はそれができるからだ。都市に移住してきた人に土地を与えることによって、良く悪くも土地の所有権が始まるだろう。

・国立法律センター、モンゴル国立大学法学部、モンゴル科学アカデミー法律センターなどの機関が協力すれば、人材は十分とは言えないが、政治家、国税庁も含めた様々な機関の協力を得ることが可能である。私個人のネットワークも活用できる。


7.土地関係・測地および地図製作管理局(土地管理局)

日時:210

会場:土地関係・測地および地図製作管理局(建築家広場前の政府庁舎分館)

対応者:N.エンフバヤル(総務局長)

     O.オヨンチメグ(法務局長)

B.チンゾリグ(国際・国内協力局)

訪問者:杉浦、加藤、齋藤、中村、アマルサナ−、シャグダルスレン

1)土地関係・測地および地図製作管理局について

土地関係・測地および地図製作管理局は、20028月に設立された。この機関の目的は、土地法、測地および地図製作に関する法律、およびそれらに関連する法規の履行を管理し、この分野におけるモンゴル政府の政策を実現することである。

2)土地法の位置付け

1990年代から、財産の私有化が始まった。土地の私有によって、それが完成する。土地私有は、民営化の第二の波である。しかし、今回の土地の私有は、これまでに行われてきた財産の私有化とは、比べられないほど大きな意義を持っていると考えている。土地所有法は、土地私有の手続きを定めたものであり、この法律によって土地の売買・贈与が全てできるようになった。しかし、土地所有法により一般的な土地の取引ができるようになったとは言え、国家による一定の介入は認められている。例えば、土地の所有者が土地を売買する場合、所管する官庁の長による許可が必要である。しかし、これを私人間の財産権の制限とは考えていない。モンゴル憲法では、土地に対する国家の諸原則が定められている。行政による介入とは、財産権の制限ではなく、憲法の原則が守られるための国家による後見的なものであると考えている。

3)なぜ許可制にしたのか?

・第一の理由は、外国人が土地を購入できない、というように国土を守るため。もう一つの理由は、例えば、農地をそこで働いている人に優先的に私有化するということにしているように、用途を重視しているので、用途を勝手に変更したりしないように、監視しておく必要があるということである。

・基本的な観点は、国家の安全保障と国土の一体性を守るため。モンゴルにとって、土地の私有化は初めての経験であるから、混乱防止のために許可制とした。私有のプロセスがうまくいき、国民の土地に対する意識が発達すれば、許可制も廃止されるかもしれない。

5)土地基本計画とは何か?土地所有の手続きを定めた規定では、2005年までに住宅地の私有化を完成させるとなっているが、これはどのように理解すればよいか?

・土地法とは、国有地の私人への賃貸借の手続きを規定した法律、土地所有法とは、国有地を私人の所有に移す手続きを定めた法律である。土地基本計画は、内閣の決定によって定められたものであり、土地法による国有地の私人への賃貸者に対する国の基本方針を定めたもの。

私有化の形態は2つあり、家族の生活用の土地は無償で、商業用の土地は有償で私有化させる。したがって、家族の生活用の土地は2005年までに私有化を完了させ、商業用の土地の有償の譲渡には期限の定めがない。

6)土地基本方針が「2023年まで」となっている根拠は?

・今まで、モンゴル国には土地に関する基本計画というものがなかった。例えば、私人に国有地の賃貸をさせる場合に、様々なレベルの自治体長が許可を出せるような仕組みになっていた時期がある。その反省を踏まえて、国の土地に対する統一政策を決めることになり、2002年に土地法を改正した。その一環として、この土地管理局が設立された。全国の土地基本計画をここで策定している。20年間というスパンで計画を立てていくという政策方針になっているので、2003年から開始して2023年までの土地基本計画を立てた。それに向けて、より細かな計画を全国的に作って行くことになる。基本計画の内容は、環境保護も含めた土地に関する全ての計画をここで策定する。

7)従来の土地利用権と今後決定される私有権の調整(どの土地を賃貸させ、どこを私有させるのか)は、ここが決めるのか?

・どの土地を賃貸させ、どの土地を私有させるのかを決定するのは、地方自治体の権限である。地方議会にその権限があるので、この管理局がそれらを決めることはしない。この管理局は、全国的な統一方針を定め、データを収集してデータベースを作り、地方自治体から提出されたデータをチェックして、その用途などに違反がないかを監視する。

・手続き的には、地方議会がどの土地を私有させるかを決定し、それを内閣が最終的にチェックし政令として発令して、初めて私有が認められる。2004年度に私有化させる土地の決定が、来週内閣から出される予定である。

8)私有化の対象が国土の0.9%となっているのは、なぜか?土地の賃貸の上限は、あるのか?

0.9%という数字の根拠は、私有化前に全国でどれだけの土地が産業・住宅に必要かを試算して出した数字。全国に568,000軒の世帯があり、都市部・地方で私有化させる1世帯あたりの面積と世帯数をかけあわせて単純に出した数字である。私有化に際して、国土の全てが私有化させられてしまうのではないか、と不安に思う国民もいたので、そうではないことを示すために出した数字でもある。しかし、この0.9%の土地の私有化が完了した後は、一切私有化させないという意味ではない。土地基本計画を改めて策定した場合に、これ以外に私有化させることもあり得る。

9)これまでの進捗状況は?

・土地所有法が実施されて9ヶ月経った。土地私有化は、いくつかの段階に分けて行うことになっている。第一段階は、家族用生活用の土地の私有化で、2003年度はその私有化のみを行った。2004年度は、第二段階として、商業用地の私有化を開始した。現在、25,000世帯が家族用の土地を私有した。この数字は、2003年に私有化を予定していた数字の5.1%に過ぎない。国民から土地私有の申請を受けて、3ヶ月以内に結果を出さなければならないので、実質的には昨年8月から私有が始まったということができる。したがって、私有化が始まって実質的に6ヵ月しか経っていないので、この数字だけで私有化のプロセスを判断することはできない。この私有化の過程に影響を与える要因もいくつかある。

・首都における私有化は25%まで進んでいるのに対し、地方では0.2%〜10%しか進んでいない。都市部ほど、土地に対する需要があり理解が進んでいると言える。

・もう一つの大きな要因が、土地に対する税金である。土地税はなかなか決まらなかったが、今年の1月になってようやく決まった。国民の間に、土地税の負担を警戒する人が多く、土地税が決まるまで様子を見るという人が大変多かった。現在の土地の賃料よりも税金を低く設定した。土地税は一律ではなく、場所や用途によって異なる。ウランバートルを4つの地域に分け、それぞれの地域で税率を変えたし、ウランバートルと地方都市でも税率は異なる。本来は土地価格の0.6%が税率の予定だったが、私有化促進のために税率を大幅に下げた。具体的には、都市部では95%、県都で97%、村で98%税を下げた。

10)土地登記は、いつから始まったのか?

20036月に不動産登記法が改正され、登記対象に不動産が加えられた。登記機関の構造については、首都においてはこの管理局の一部門である不動産登記局が登記を行い、地方においては地方自治体に土地担当の部署に登記官が1人置かれることになった。2003年は、登記を実際に行っていく上で必要な規則の整備を行った。2004年から、土地の登記がスムーズに行われるだろう。

11)土地分配に対する公正さをどうやって保障するのか?

・土地私有のプロセスにおける一番大切な原則は、公正さである。そのために、社会的地位や家族の数に関係なく、与えられる土地の広さを一定にした(例えば、都市部なら1世帯につき0.07ヘクタール)。さらに、現在その土地を使用している人に、その土地の私有を優先的に認めた。三つ目に、自分の私有している土地以外の土地の私有を申請した場合に、他者の私有が予定されていないなら私有が認められるものとした。例えば、首都で土地を無償でもらい、地方で土地を有償で私有する道も開かれている。

12)土地の申請が重複した場合はどうするのか?

・無償の土地の場合は、申請の順番による。有償の場合は2つの方法があり、オークションによる場合とプロジェクト入札のように用途などを比較して決める場合とがある。

13)土地の用途による分類(牧地、農地、商業地など)や、それを地図に落とす作業は完了しているのか?

・その作業は、現在行っている。ウランバートルでは、どの土地を公有地とするかの作業を現在行っている最中であり、2004年度内に終了する予定である。ウランバートルの家族用生活地を特定する作業は、この1月に終わった。


8.USAID司法改革プロジェクト事務局

日時:211

会場:USAID司法改革プロジェクト事務局(観光者通りに面したオフィスビル)

対応者:M.フランセス.エドワード(研修専門家)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)司法改革プロジェクトの概要

7年前にプロジェクト構想が始まった。これまでに、検察のトレーニング、地方の各村での担当者トレーニング、ラジオを使った公共法律教育、家庭内暴力に対する啓蒙、新仲裁法のトレーニング、司法試験改革への協力などを行っている。

・地方でのトレーニングは、2002年に全てのアイマグで行った。2003年には、いくつかのアイマグで行った。ウランバートルにトレーニング・センターを設置したので、今後はそこを活用するようになる。

・法整備に関するドナーミーティングに参加しており、法務内務省やGTZとは密接な関係を築いている。

・モンゴル法の基礎はドイツが作ったので、USAIDは限られた分野での支援をしている。


9.モンゴル国立大学法学部 外国語学部日本語学科

日時:211

会場:モンゴル国立大学 外国語学部日本語学科(モンゴル国立大学2号館)

対応者:S.ドルゴル教授(学科長)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)概要

・学生は、昼間部・夜間部を合わせて140人、このうち、現在8人が日本に留学している。留学先は、東京外大、筑波大など。教員は、8人(うち日本人教員は1人)。しかし、国際交流基金からの日本語教師派遣が今年5月で終わるので、今後は日本人教師を別の方法で探さなければならない。

2)法学部での日本語教育

1980年代には、法学部で日本語を選択コースとして日本語学科が教えていたことがある。現在は、そのような授業を他学部で行っていない。学内にそのような要望があれば、再び実施しても良いと考えているが、そのためには教員を増員する必要がある。もし、法学部で日本語教育を今後行うならば、日本語学科は、本学の法学部および名古屋大学に協力することを検討したい。

・日本語学科が法学部生の希望者に選択授業として日本語の初歩を教え、法学部で日本留学経験のあるアマルサナ−講師のような教員が日本法の概説を同時に教え、その中から将来日本に留学して名古屋大学などで法学を日本語で学ぶ学生が現れれば、非常に効果的な教育ができるだろう。


10.オトゴンテンゲル大学法学部

日時:211

会場:オトゴンテンゲル大学法学部

対応者:バーサン教授(副学部長) → 概要について

     オヤンガ講師(民法)、他2名の教員(民法) → 土地法に関する質問について

訪問者:杉浦、齋藤、中村、アマルサナ−、シャグダルスレン

時間節約のために、「概要」と「土地法に関する質問」の2つの班に分かれて行動した。

1)概要 (杉浦、中村、アマルサナ−)

・オトゴンテンゲル大学は、法学部、経済学部、外国語学部を持つ私立大学である。全学で、1200人の学生、70人の教員がいる。

・法学部は、10年前に設立された。学生数は、昼間部・夜間部・集中コースを合わせて600人、教員は、14人である。

・学部の他に、修士課程が設置されている。博士課程の学生もいるが、博士の審査はモンゴル国立大学法学部で行うことになっている。

・民法の研究者が多く、民法の教育に力を入れているのが、この法学部の特徴である。

・本法学部は、世界銀行の司法改革プロジェクトに協力しているほか、個人的にGTZのプロジェクトに参加している教員もいる。

3)質疑応答 (齋藤、シャグダルスレン)

現在翻訳中の、モンゴル土地私有化法(仮称)に関する難解な部分を、法文の背景から確定させるための質疑を1日かけて実施した。明らかになったと思われるいくつかの点は、次のとおりである(再度確認を要する部分もある)。

・土地私有化法により土地の私有が認められるのは、2002年6月26日現在でモンゴル国籍を有する「家族」であるが、この場合の「家族」とは、「一定範囲の親族であって同居している者」をいうとのことであり、そのことは私有許可申請等に添付する行政官庁(ウランバートルでは市、ソムでは役場?)の発行する家族の証明書により、手続的に証明される。ここでいう家族は、政策的な私有化の主体であり、財産法的な観点では共有と理解されるので、共有物分割も可能だということである。なお、ここでいう「家族」が日本法的な共有として登記されるかは、登記簿の実際の記載を見ないと明らかではない。

・私有主体は、200551日までに無償譲渡される一定面積(地域により異なる)の土地に限り家族であり、それ以外はモンゴル国籍を有する個人でも可能である。

・農用地については、共有の他に直訳すると「区分所有」に当たる規定がある。ここでいう区分所有が何を指すか興味があったが、所有者の異なる連続した畑(数筆の土地)を、所有者全員の合意で一区画の畑として耕作する場合があり、その耕作区域の各所有者の自己所有部分を「区分所有」と呼ぶとのことである。しかし、この場合の、個々の土地相互の権利関係までは、現段階では理解されていないようであった(大学教員間で意見が異なった)。

・私有化された農用地の用途変更については、法文に明確な規定が置かれていない。この点については、変更は不可能だということであった。ただし、応答の様子から察すると、私有された農用地の用途変更は未経験なので、絶対不可能と結論付けることはできないと思える。

・所有者に土地の現状維持や「劣化防止」の義務が置かれていることについて、研究者はさほどの意味を見出してはいないようである。

・その他、法文の規定の中で整合性の取れないものがあることについては、(齋藤から)指摘されたとおりで、今後整理が必要だということであった。


11.ハンス財団事務所

日時:211

会場:ハンス財団事務室(モンゴル国立大学法学部2階)

対応者:A.メンドバヤル(プロジェクトマネージャー)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)概要

・ドイツの首相ハンス・ザイデルを記念して、1966年に設立された財団。本部は、ミュンヘンにある。モンゴルには、1993年に事務所を設立した。

・ハンス財団は、モンゴル政府との間に「モンゴル国の法律・行政分野に関する支援」という協定を結び、法学教育の支援、ドイツ留学のための奨学金給付、ドイツから帰国した学生へのフォローアップ、ドイツ人教員による年数回の集中講義やセミナー・シンポジウムの実施、モンゴル政府へのアドバイス、法学教材の出版、テレビ・ラジオでの法律番組の放送などを行っている。

・集中講義やセミナー・シンポジウムの内容や派遣される講師のリクエストは、この事務所で検討の上、ドイツ本部に対して出している。

・この事務所と別に、最高裁判所の中に「ハンス財団アカデミー」という事務所を設置しており、これは図書館機能を有している。

GTZが民法・ビジネス関係の法律を支援しているのに対し、ハンス財団は刑法・公法を支援している。もう一つのドイツのNGOであるコンラッド・アデナウアー財団は、地方行政・議会に対する支援を行っている。

・現在は、ドイツ人教員は常駐しておらず、ドイツに留学経験のあるモンゴル人スタッフが常駐している。事務所のスタッフの給与は、ハンス財団から出ている。


12JICAモンゴル事務所

日時:211

会場:JICAモンゴル事務所(ゴルムト銀行ビル7階)

対応者:清水暁氏(副所長)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)日本法教育研究センターについて

JICA本部およびウズベキスタン事務所などと連絡を取り、日本法教育研究センターの設置について前向きに検討したい。センターが設立された後の効果などについて具体的なイメージが必要であると思われるので、名古屋大学にはそのイメージを作ってもらいたい。

・モンゴル国における法律問題は、法律の起草の問題というよりも運用の過程に問題があると認識しているので、そのような分野に貢献できるようなセンターになってほしい。


13.世界銀行 司法改革プロジェクト事務所

日時:211

会場:世界銀行司法改革プロジェクト事務所(法務内務省内)

対応者:D.オユンチメグ(プロジェクト調整員)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)プロジェクトの概要について

・モンゴル国における世界銀行で初めての法律プロジェクト。

・このプロジェクトの目的は、法情報へのアクセスの改善、専門裁判所の設立と運営、法学教育の改善であり、そのために国立法律センターの開設、裁判所行政部の設立、法学教育支援、法律家再研修などの活動を行っている。

2)裁判所行政部について

・裁判所行政部は、法の支配・公正・平等を確保することを目的に、最高裁判所・首都裁判所・ダルハン市裁判所に61日に開設される。

・現在、裁判所行政部の施設の準備、首都・ダルハン市での行政裁判官の養成を行っている。

3)国立法律センターについて

・国立法律センターの目的は、国民が法律にアクセスすることを容易にすること、法律家の再研修、法律の研究である。これまで、国民が法律にアクセスすることは困難であったが、このセンターの開設により容易になると考えている。

4)法学教育支援について

・これまでは、法律家の再教育が中心だったので、これからの法律家の養成のために、大学での法学教育支援も開始した。5年間にわたって、3つの大学を選んで支援を行う予定である。

・大学への法学教育支援について、ハンス財団、カナダのモントリオール大学と法学教育の国際協力について話し合った。今後、どの大学や機関と協力していくかは未定。名古屋大学とも、ぜひ協力していきたいと考えている。

・教材の作成や教材作成のために、教員を外国に派遣することもしている。


14.ダンバダルジャー地区のゲル地区視察

日時:211

会場:ダンバダルジャ−地区(ウランバートル市北部)

対応者:J.アマルサナ−教授

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)ダンバダルジャー地区について

・ダンバダルジャー地区は、ウランバートル市北部に位置するゲル地区である。付近には、名刹ダンバダルジャー寺やモンゴル抑留日本兵の墓地などがある。かつては、ダンバダルジャー寺周辺にゲルがあるものの、それより北には夏用の別荘「ゾスラン」が数軒ある程度だったという。しかし、ウランバートル市の人口が増加するに伴い、ダンバダルジャー寺より北の地区にもゲル地区が広がった。現在では、道路沿いの土地を柵で囲い、「私有地」のようにしている光景が目立つ。

2)土地法の影響

J.アマルサナ−教授によると、ダンバダルジャー寺より北の地域は、本来居住が許されていなかったが、2000年の選挙の直前に当時の民主連合政権が「不法に住んでいる人々」に対して居住を認めた結果、現在のようにゲル地区が拡大したという。現在、さらにその北部にまでゲル地区が拡大しており、そこは「住宅地」に認められていないが、20046月に選挙があるため、今度は人民革命党政権によって「住宅地」として認められるだろう、とのことである。つまり、ウランバートル市の人口増加によるゲル地区の拡大は、一方で政権の選挙対策と密接に結びついているのである。

・また、土地法・土地所有法の施行以後、土地を囲む柵が目立って増えたという。これらの柵は、住居用のゲルを囲んでいる場合と、倉庫などを柵で囲んでいる場合があり、どちらも土地所有法に定められた広さを守っているとは限らない。道路沿いなどの条件の良い土地を囲い込み、それを後日、賃貸や売買して金儲けをしようと考えている人々がおり、それを行っている人々には政権や政府に関係のある者が多い、ということである。


15.日本大使館

日時:212

会場:日本大使館

対応者:清水武則氏(次席)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)日本法教育研究センターについて

・モンゴル日本センターは、人材育成のための施設で、移行期の終了後にはモンゴル国立大学に引き渡す。モンゴル側に引き渡した後、センターの運営が出来るのかという問題もあるし、位置付けが中途半端でもあるので、モンゴル日本センターの中に「日本法教育研究センター」を設置するのは、難しいのではないか。

・むしろ、モンゴル国立大学の中に「日本法教育研究センター」を設置し、JICAの専門家やシニア・ボランティアが運営に参加し、名古屋大学から集中講義などに教員を派遣する、というのが良いかもしれない。そのためには、モンゴル国立大学の全面的協力が必要であるから、モンゴル国立大学の学長から大使館に対して、要請を出してもらうのが良いだろう。

・モンゴル国に対して、物をあげる援助はもう必要ないと考えている。日本のODAは、モンゴル国が社会主義を放棄し、民主主義に移行したので、それを応援しようと開始したものである。しかし、民主化以後、モンゴル国では新たな問題が起きており、法整備が完成しない限り、「民主化を応援しよう」という我々の本来の目的に反してしまうと考えている。

・今回の短期調査で、日本法教育研究センター設立のプログラムの骨格を作り上げて欲しい。日本大使館としては、全面的に支援したい。あとは、モンゴル国立大学が、どれだけ主体性を持って取り組むかだ。

・今年は、日本・モンゴル文化取極(とりきめ)30周年で、モンゴル国でシンポジウム開催などを考えている。その一環として、名古屋大学の取り組みにも協力したい。


16.モンゴル日本センター

日時:212

会場:モンゴル日本センター

対応者:四釜嘉総氏(所長)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)日本法教育研究センターについて

5年間の二国間協定で活動内容が既に決まっており、その中に新たな内容を入れることは難しい。この協定が終わる2年後の時点で、新たな内容を入れることは可能だが、どうなるか分からない。したがって、日本大使館で示唆を受けたように、モンゴル日本センターとは別に「日本法教育研究センター」を設立した方が良いだろう。

・モンゴル日本センターでは、民間の日本語学校の経営を圧迫しないために、日本語の初級コースは設けていない。だから、法学部生を対象に日本語を初級から教えることはできない。

・モンゴルには、日本語能力試験1級保持者が約80人もいる。JDSによる留学制度には、日本語による受験の枠(5人)があるが、現在は東北大学の2コースのみが受け入れ先になっている。しかし、モンゴル国の受験生の間では、選択肢が少ないと不満になっている。過去には、日本語で法律コース受験を希望した者もいた。名古屋大学でも、JDSの日本語受験を受け入れるようにしたら良いのではないか。

・昨年末に行われたモンゴル支援国会合では、法整備も重点項目に入っていたので、日本法教育研究センターが実現できれば、大きな貢献となるであろう。

2)シンポジウムの開催について

・シンポジウム開催の会場として、土曜日は開催可能であるが日曜日は休館にしている。

9月はシンポジウム開催の希望が多いので、出来る限り早く申し込んで欲しい。


17GTZ事務所

日時:212

会場:GTZ事務所(モンゴル法務内務省内)

対応者:L.ザヤ−(プロジェクト調整員)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)GTZの法律分野での活動について

GTZは、モンゴル国で1995年から法律分野での協力をしている。これまでに、民法・ビジネス法の起草、法律家のトレーニング、法律家再教育のための教官養成、法律の研究、法律情報の公開などの分野で仕事をしてきた。

・法律の起草では、30の法律案を作り、うち12が国会で採択された。民法、民訴法、仲裁法、有価証券法など。

1995年からの活動で重点を置いてやっているのが、法律家・裁判官・警察官の再教育である。今後、公証人の研修も計画している。

・裁判官研修は、これまでに4回やっている。1回の研修は、10日間程度である。刑務官の研修は、2回行っている。

・これまでに、法律家再教育のための教官を12人養成し、うち10人が地方に、2人が首都で活動している。

・法律家再教育の研修のうち、最初の2回の研修(1996年〜1999年)は、ドイツ人教官が行い、その後はモンゴル人教官が行っている。

・法律家再教育のための教官は、ドイツ語をモンゴルで勉強し、3ヶ月ドイツで研修し、1年モンゴルで勉強した後に、教官となる。一人前の教官を養成するのに、35年の時間がかかる。刑務官の研修のための教官は、刑務官から養成した。

1996年には、裁判所の調査を行った。裁判が遅くなる理由として、裁判官の数に対して訴訟件数が多いこと、管理業務が効率的でないこと、の2点があると分かった。そのために、裁判所に行政部を作り、全ての法律をPCで見られるようにし、どの裁判官がどの事件を扱うかもPCで決めることとした。

・法律の研究については、我々の活動そのものを研究対象にしている。

・法情報の公開は、2000年から開始した。ラジオで法律番組(法律実務、アパートの契約について、など)を行っている。モンゴル国営テレビでの法律番組も開始し、高い視聴率を得ている。地方では、ラジオの果たす役割が高い。

・ブレーメン大学のKnieper教授が、モンゴル国を17回訪問し、民法起草のアドバイスをした。その時の情報を元に、GTZでは法情報CDを作成した。

・裁判官・弁護士のためのマニュアルとして、モンゴル語の教材をこれまでに20冊作成した。モンゴル人、ドイツ人の両方が執筆している。それ以外に、民間人やビジネスマン、子どものための法律の本を昨年出版した。2002年に民法改正が行われたが、それに対応するための本も出版した。

GTZの法律分野での活動8周年を記念して、2003年に国際シンポジウムを開催し、その成果を出版した。


18.モンゴル国立大学総長

日時:212

会場:モンゴル国立大学総長室(モンゴル国立大学1号館)

対応者:Ts.ガンツォグ教授(総長)、S.ダバー教授(副総長)、S.アルタンツェツェグ(国際交流室長)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)名古屋大学との関係について

・名古屋大学との協力体制は、順調に進んでいると思う。名古屋大学に留学した学生や教員が、今後戻って来るので、協力関係は一層発展するだろうと期待している。

・近日中に、日本大使館に対して「日本法教育研究センター」設立の要請を提出する。


9.首都裁判所

日時:212

会場:首都裁判所

対応者:バヤンバー(裁判官)、ダグワ(総務課長)

訪問者:齋藤、シャグダルスレン

1)概要

・首都裁判所は、第一審裁判所8庁と、第二審裁判所1庁の総称で、この管内でモンゴル全体の半数近くの事件(第一審に関しては、年間民事事件が約900010000件・刑事事件が約30004000件)を処理している。

2)不動産をめぐる訴訟について

・不動産をめぐる民事訴訟は、全体の約20%程度(2000件)で、土地の所有をめぐるものは当然ながらまだない。

・現在は、アパートの賃貸借をめぐる紛争、具体的には賃料不払いによる明け渡し請求事件が多く、次に多いのがアパートに賃貸人が修理・改善した費用をめぐる事件とのことであった。具体的事案まで立ち入れなかったが、この修理・改善した費用をめぐる事件というものが、市内に多く見られるアパート一階への店舗の増設部分のことだとしたら、数年前に齋藤が指摘したとおりの事態となった。このほか、賃貸借に関しては、転貸借、二重賃貸、契約終了をめぐるものなどがあるとのことであった。

・売買に関しては、代金をめぐる争いがあるとのことであった、どういう事例か興味深い。また、所有権に関するものでは、相続にともなう遺産分割の争いが多いようである。   

・不動産の担保に関し、被担保債権を争うものがあるとのことで、更に聞くと、銀行がアパートに関する担保の実行を直接実施し、その際にオークションが不公正な価格で行われ、しかも売却価格が被担保債権を上回った場合でも差額の返還がないので、争いになるようであった。この点に関し、モンゴルの銀行の不動産担保に関する理解は、わが国の「譲渡担保」や「条件付代物弁済」もしくは「代物弁済予約」なので、自己所有物の売却と考えていることと、裁判所が担保を交換価値支配と理解していることとの食い違いがはなはだしい。この点も、齋藤が以前から指摘を続けていたところである。

・このほか、不動産売買の争いは、実体法上は不動産登記に公信力が与えられているので、どのような争いかと聞いたところ、裁判官に「実務上公信力は否定されています」と一刀両断された。これまで、登記の公信力を前提にモンゴル不動産法の理解を進めてきたので、公信力が研究者や実務家にどのように理解されているのか、裁判実務でどのように否定されているのかを、早急に調べる必要が出てきた。今回、このことが最も興味深かった。

・最後に、総務課長より「知りたいデータや裁判例があれば用意するので、連絡を欲しい」との言葉を頂戴した。裁判所は、今回の研究活動に大学同様、大変協力的であった。


20.モンゴル国立大学法学部

日時:212

会場:モンゴル国立大学法学部(モンゴル国立大学3号館)

対応者:ルンデンドルジ教授(副学部長)

訪問者:杉浦、中村、アマルサナ−

1)今回のモンゴル短期調査の総括

・法律が実際に社会でどのように動いているかを調べるために、地方・首都で起きている紛争、法律上の問題、という2つの方向から名古屋大学との共同研究を進めたい。

・今の国会は、土地や法律のことを知らない。土地法を研究することが、研究者に求められていると思っている。

・モンゴル国立大学法学部の紀要『法』(季刊)を名古屋大学に今後定期的に送ることにする。





以上